2008年12月17日水曜日

エコフォント

インクの使用量を20%減らすことができるというフォント、"ecofont"。

見本はこちら。


白い部分は細かい穴。これでインクを節約するわけです。新聞記事では「建設用資材の中を空洞にして軽量化するのと同じ」と説明されていました。
上のサンプルを小さくしてみると、

多少薄めながら穴はわかりませんね。フォントなので好みの問題はあると思いますが、「紙で読みたいけど読めればいい」ものの印刷には十分ではないかと。

開発したのはユトレヒトのデザイン系会社Spranq
フォントは専用サイト(オランダ語・英語)からダウンロードできます。

2008年12月11日木曜日

欧州委員会、ヨーロッパ文学賞を創設

先週のニュースですが、欧州委員会が文学賞を創設する計画を発表しました。来年秋から3年間の期限つきで、ヨーロッパ各国の若手作家が対象。目的は「ヨーロッパにおける現代文学の豊かさ」を内外に示すこと。賞の授与のほか、毎年文学界から「ヨーロッパ文学大使」を任命することも決まったようです。

しかし、誰がどうやって選考するのか...。選考委員の人選からして大変な作業です。もちろん、候補作選びも。そもそもヨーロッパの文学とは、という話になってしまうと終始がつかなくなるのでは。それに、言語の枠を超えて若手作家を評価するというのも簡単ではありません。当然出版社の力関係がからむ話になるのでしょうが、新人の翻訳作品は多くないはず。仮に翻訳があっても、ヨーロッパの文学メジャー言語 —ドイツ語、フランス語、英語、イタリア語あたり?— のすべてに訳されていることはまずないだろうし。

ベルギーの新聞De Standaardのオンライン版では、フランダース文学基金の代表が「それよりも各国の代表的な文学作品を集めた全集を編纂・翻訳出版する方が有意義ではないか」と語っています。

2008年12月5日金曜日

生き苦しさの先にあるもの:Stand-in

今年のVN Detective&Thrillergids(推理小説&スリラーガイド)で、オランダ語オリジナルとしては唯一5つ星を獲得。「独創性、斬新さ、緊張感、センスある文体:すべてをあわせ持っている。なかなか素晴らしい」とかなり褒められていた作品。手に取ってみたくて探したのですが、大きな書店でもいつも空振り。先日図書館で見つけたので借りてみました。

<あらすじ>
舞台は1930年代のハリウッド。ハンガリー出身のJarek Simitzは、かつてJack Stormの名でサイレント映画に出演、親友のBurt Falconにスタンドイン兼スタントマンを務めさせていた。しかしトーキーの時代に入ると、なまりのある英語しか話せないJackは干され、反対に生粋のアメリカ人Burtがスターとなった。将来への希望もなくし、関節炎の痛みばかりを抱えるJackは自殺を決意。ただし、事故に見せかけた自殺。愛する妻と子どもに保険金を遺すためだ。JackはBurtに最後の応援を頼む。そして2人は計画の実行に踏み切るが...。

B級映画っぽくもありながら予想を裏切る展開に「そう来るか!」と読み進めました。これって間違い? と思う箇所もありましたが。ちょっと雑かなぁというところは、この著者の作品は初めてだったので、パターンに慣れてないこともあるかと。

表紙は昔の映画ポスターを模したもの。Roman Noir: STAND-IN  Crime Novel of the Yearと入っています。でもそんなにダークな話ではありません。クライムノベルというのも、どうなんでしょう。犯罪をめぐる小説ではあるけれど、裏社会の闘いを描いているわけではないし。

もともと沈黙を好む上に、移民で、きちんとした英語が話せないことを恥じている主人公Jarek/Jackにとって、サイレント映画の俳優は理想的な職業でした。仕事を離れたところでもなかなか口を開かないJarekに妻のAllyが言います。「ほんとの人生ではものを言わないと(In het echte leven moet je praten.)」それは、好むと好まざるにかかわらず、時代の流れにあわせることでもありました。もがいてもどうにもならない、ここまでだ、と人生最後の芝居に踏み切ったJarekですが、考えた通りにことは運びません。そんな中で身近な人の「言っていなかったこと」も明らかになったり、サスペンスというより哀しいコメディの要素も。タイトルのスタンドインとは、危険なシーンを俳優の代わりに演じるスタントマンとは違い、撮影の準備段階でセットに入る「代役」のこと。画面に映ることのない裏方の仕事です。誰が誰の代役か、という点からストーリーを眺めると、全体のスピード感とはまた違うおもしろさがあります。

著者Dhoogeは1973年、ベルギーのゲント生まれ。小説家としてのデビューは2001年ですが、すでに40冊近い著作があります。子ども向けの共著を除き、作品にはすべてSで始まるタイトルがついているそうです。

Bavo Dhooge - Stand-in, Kramat (2007), ISBN 978 90 75212 82 2

2008年12月3日水曜日

違憲審査制の導入法案、上院で可決

12月2日、違憲法律の審判提起を可能にする法案が上院で可決されました。

オランダでは、個人の権利の保護に関して違憲審査の制度がありません。というより、裁判所が違憲性の判断を行うことは憲法で禁じられています。基本権の侵害にあたって現在唯一の救済手段は欧州人権裁判所の判断を仰ぐこと。欧州人権条約が発効した1953年以来、この裁判所がオランダ政府の人権侵害を認定したケースは50件以上あるとか。審理に少なくとも5、6年かかることを考えると、年に1回は何かあるということになります。欧州条約が定める基本権はオランダ憲法が想定しているものよりも範囲が狭いといわれていますが、最近では新しい法律を制定する際に、憲法よりもまず欧州人権条約とのからみで問題がないか検討する傾向が強まっているそうです。

可決されたとはいえ、すぐに制度導入に着手とはならず、次期政権のもと再度上下両院での採決に付されます。憲法を修正する法案であるため、今度はいずれも3分の2の賛成が必要。

この法案はGroenLinks(緑の党)のHalsema党代表・下院議員代表が提出したもので、最初に下院を通過したのは前内閣時代の2004年。このときは与党CDAを除く政党はすべて賛成(1人会派の1議員は棄権)。が、今回はCDAに加えてVVD(前内閣では連立与党、現在は野党)とSGP(プロテスタント政党)も採決に先立って反対を表明、2004年には法案を支持していた内閣も否定的な姿勢を見せて、連立与党のパートナー2政党(PvdA、ChristenUnie)が鍵を握る状態になっていました。結果、賛成37、反対36で可決したものの、数年後の再審議を切り抜けられるのか、予想がつきません。

2008年11月28日金曜日

ネットショップでトラブル?

Amazon.co.jpへの注文の一件、続き。

発送のお知らせメールにあった配達予定日の夕方になってもDHLさんが来ないので、まずアマゾンのサイトで配達状況を確認。
「不在のため持ち帰りました」
え? DHLのサイトでもトラッキング。
「不在 11:47」
今日はずっとうちにいたよ...。ポストを見ても不在票は入ってないし、再度配達してもらえるのかどうか、それがいつかも分からない。で、DHLのカスタマーサービスに電話。前にFedExのカスタマーサービスでやれやれの気分になったことをちらっと思い出す。でもこの荷物が日本に送り返されてしまったら、支払いの話がもっと面倒になるし...。
「持ち帰ったとなってます」
「でもその時間は家にいたんです。誰も来なかったし、不在連絡票も入ってません」
「住所はあってますよね? 明日またうかがう予定です」
「もし明日受け取れなかったらどうなりますか?」
「配送所まで引き取りにきてください」

翌日。お昼前に来てくれたお兄さんと。
「昨日も来てくれました?」
「昨日は僕じゃないです。これ、再配達になってますけど、不在票なかったですか?」
「その時間家にいたし、不在票も入ってなかったんです。電話して今日また配達があるって聞いたんで」
「おかしいなぁ。これ、再配達のシール貼ってあるのに」
「まあ、今日ちゃんと届いたんでもういいです」
「そうですよね。サインお願いします...」
と、本は届きました。1日目の配達の人、絶対来てないよ、それで勤務時間ごまかしてるんでしょ、というのはこの顛末を聞いたオランダ人の発言。これにさしてびっくりせず、そうかもねぇと思ってしまうのは、やはり鍛えられたということ?

クレジットカード認証とよく分からない引き落としについては、アマゾンからメール。請求は実際に発送した1回分だけ。その他の分については事実が確認できず、アマゾンの方からデータの削除依頼もできないので、カード会社に問い合わせてください、とのこと。そんなところだと思ってはいましたが、これだけの回答に10日もかかるとは。カードの明細をチェックしたところ、覚えのない請求はなかったこともあり、そのままにしてあります。

注文した商品は無事届き、支払いも問題なく処理されているようで、損害を被ったわけではありません。でも、やっぱりどこか腑に落ちない。カスターマーサービスでもさらっと対応してもらえましたが、本人の話より、(その本人が見られない)データの有無で判断が下されていることがあらためて分かりました。いつ注文した、どのカードを使った、住所はどう入力した、と説明はできるけど、その記録がなければ「事実」として認められない。今回はラッキーだった、ぐらいに考えておく方がいいのかもしれません。

2008年11月20日木曜日

ドイツ占領下のユダヤ人所有不動産に関する新事実

第二次大戦中、ドイツ軍に接収されたユダヤ人の家を売って富を築いた不動産業者の存在が裏付けらたというニュース。詳細は歴史問題を扱う雑誌Historisch Nieuwsbladに掲載(HN nr. 09/2008)。

オランダ国立公文書館とアムステルダム市が保存する資料を用いて、ドイツ占領下の不動産市場の状況を調査。ドイツ軍はおよそ20,000件にのぼる家屋敷をユダヤ系の市民から接収、オランダ人不動産業者を介して売りに出した。うち売買契約が成立したのは少なくとも9,000件。買い手の多くは秘密裏にドイツ軍に協力して収入を得ており、この不動産投資でマネーロンダリングをするかたちになった。

ユダヤ人財産の法的権利回復については美術品の返還をめぐる話が以前ありましたが、今回の記事は、こうして私腹を肥やした者が実際にいたこと、またこの事実は戦後補償の枠組みの中で議論されていない点を指摘するもののようです。調査を行ったEric Slot氏がニュース番組の取材に答えていました。当時、ローンの返済に空白期間があると所有権の主張は認めないという法律?があったそうで、資産を没収されていて返済のしようがなかった人たちに対して、これを理由に返還は請求できないと説明していた場合があったとか。

また、別の報道によれば収容所を生き延びた本来の所有者やその家族に屋敷が返還されたケースも示談による解決がほとんどで、取り引きに関わった不動産業者らは責任を問われていません。Centraal Joods Overleg(ユダヤ人中央協議会)は賠償請求の可能性を検討するとコメント。ただし、誰に対して請求を行うことになるかは現時点では明らかではありません。

2008年11月18日火曜日

ネットショップで初トラブル

先週、Amazon.co.jpに本を注文。
いつも使っているクレジットカードで、注文確定、確認メールまではいつもどおり。ところが、しばらく後にカードの認証ができない、とのメールが。翌日、やはり認証が済んでいないので別の支払方法を指定しなければ注文はキャンセルします、と。前回までの注文と同じカードなので変更するも何も、と思い、同じ情報をもう一度登録してみたところ、結果は同じ。認証ができない、カード会社に連絡しろというので、オランダの某銀行カスタマーサービスに電話。

「ただいま込み合っております。もうしばらくお待ちください」のテープを15分聞かされてやっとつながったと思ったら、住所を確認している途中で回線が切れる。へこみつつかけ直して、今度は待つこと30分。大きな声のおじさんに事情を話すと、「じゃあデータ見てみましょうか〜」とさっと対応してくれたものの、注文確定の日に3回、カード情報を再登録した日に1回、同じ額が引き落としされていることが発覚。認証できないっていうのに引き落とし? しかも4回? 混乱していると、おじさんいわく「今日はこういう問い合わせがすごく多いんで、うちのシステムの問題みたいです。月曜日もう1回電話してください。そのネットショップにも、複数回引き落としがあったと連絡しておいた方がいいと思います」

腑に落ちないながらも、アマゾンにメール。翌日(土曜日!)の返信は「当サイトからはクレジットカードへのご請求は発生していないことがわかりました...クレジットカード会社にご相談ください」ということで、月曜日、再びカード会社に電話。

わりとすぐに出た女性にまた説明。「やっぱり4回引き落としになってますけど、ショップ側の手続きが完了してません。このまま何もせずにおくと取り引きはキャンセル扱いになり、お客様の銀行口座から実際にお金が引き落とされることにはなりません。ただ、キャンセルが確定するのは20日後なので、12月初めまでの期間にこのカードをまたご利用になるなら、限度額に気をつけていただかないと。うちのシステムではお買い物をしたことになってますので」 え? 注文額 x 4の分、使ったことになってるんですか? 「そうです。もし近くカードご利用の予定があるようなら、引き落とし請求処理の取り消し手続きができますが、これはそのショップの方からでないとできません。ショップからうちの担当にファックスを入れてもらうよう連絡してください」 えっと、日本のショップなんですけど... 「一応ファックス番号をお伝えします。先方にご相談ください」

ちょっと考えた末、やはりアマゾンのカスタマーサービスに電話してみることに。日本時間で夜7時を過ぎてたのでもう無理かなと思いましたが、さすが日本。まだ大丈夫でした。カードの認証は、なぜか同じカードで問題なく済んで、注文確定。引き落としの件は調査ということで、とりあえず返事待ちの状態です。

まだ本も届いていないし、引き落としの処理が実際にどうなるのか今ひとつはっきりしませんが、カードは引き続き使えるらしいと分かったのでちょっと安心。それに、私としてはオランダ側のカスタマーサービスの対応が意外でした。いろんな意味で鍛えられて期待値が低くなっているとはいえ、嫌な気分にならずに電話を切ることができるとは思ってなかったので。この後の展開次第でまた問い合わせをすることになりますが、どうなるやら...。

2008年11月10日月曜日

環境コミュニケーション

先週は『環境コミュニケーション』の試験。その前の週末にどうしても断れない用があって金土日と3日間何もできなかったうえ、仕事で急ぎの問い合わせが入ったりで落ち着きませんでしたが、無事終わって一安心。

この科目、教科書は10年以上前のものなので、内容はさすがに古いという印象。広報メディアとしてのインターネットは取り上げられておらず、ケーススタディも1990年代初めの事例。近く改訂されるのも必然でしょう。とはいえ、国や自治体の政策としての展開ということから考えると、進める側の意識はそんなに変わってないような気もします。パンフレット(に記載の情報)をウェブサイトで提供するのは全く普通になりましたが、それ以上のこと — 質問にきちんと回答したり、追加情報を提供したり — はなかなか行われてないのが実情。紙媒体が電子データになっただけで、情報の一方通行の状態はそのまま続いています。このあたりのケアも含めた広報活動について、新しい教科書はどう扱っているのか気になるところです。

2008年11月4日火曜日

AKO Literatuurprijs 2008 受賞作発表

AKO Literatuurprijs 2008の受賞作が昨夜発表されました。
Doeschka Meijsing(1947- )のOver de liefde

若くはないレズビアンの女性が過去の恋愛を振り返り、記憶の空白を埋めるものを探す物語。タイトルはそのまま訳すと「愛について」ですが、作家によればむしろ「愛の崩壊について」描いた作品だとのこと。

ちなみに弟のGeerten Mijsing(1950- )も作家で、1988年にこの賞を受賞。姉弟の共著もあるようです。


2008年10月24日金曜日

新しいオンライン・ビジュアル辞書

Language Magazine 2008年10月15日号の記事。

語の定義をイメージで提供する新しいオンライン辞書Wordia.comでは、
1. 単語を選ぶ
2. その定義を動画で説明
3. 動画をアップロード
の3ステップで誰でも辞書の編集に参加できる。現在は英語のみでの運用。HarperCollinsとの提携ですでに76,000語、21,000項目が(文字で)定義されている。...動画のアップロードにはYouTubeのアカウントが必要。またYouTubeから動画を検索することも可能。...

と読んで、のぞきにいってみました。誰でも投稿できるとはいえ、動画とコメントがたまっていく構成なのでウィキペディアのように編集はできません。まだ始まったばかりですが、言葉の意味を調べる辞書、ではないですね。表現辞典というか、ある語に対する特定の人の感じ方を知るリソースとしてはおもしろくなるかも。

2008年10月17日金曜日

ロッテルダム市議会、新市長を選出

今年いっぱいでの退任が決まっているIvo Opsteltenロッテルダム市長の後任に、社会問題・雇用省で副大臣を務めるAhmed Aboutaleb氏が選出されました。15歳でモロッコからオランダに移った氏は労働党(PvdA)に所属。2007年2月に副大臣となる前はアムステルダム市議会で社会問題を担当していました。

市長職は応募者から市議会が選出し、内務大臣が任命します。ロッテルダムはオランダでアムステルダムに次ぐ大都市。反イスラム、移民排斥を声高に主張する流れをつくり、2002年の総選挙直前に銃撃され死亡したPim Fortuynの本拠地でもありました。その街で外国出身・ムスリムの市長が誕生することになったのです。もっとも、Fortuynが大きくし、今も市議会で第二党の勢力を誇る政党Leefbaar Rotterdamは今回の選出にも強く反対した模様。Aboutaleb氏がモロッコとオランダの二重国籍であることを最大の問題としています。また、この点についてGeert Wilders率いる右翼政党PVVは、国会で選出の無効を訴える構えのようです。

2008年10月10日金曜日

秋の政労使三者会議

今週は政府・労働組合・使用者団体の代表が集まる三者協議がありました。毎年春と秋に開催され、注目度も高いのですが、今回は金融危機のニュースの陰に隠れてしまいました。主な合意事項は次の5つ。
  1. 2009年のベースアップ:2008年の水準(3.5%)を上限とする。
  2. 失業保険の保険料の被用者負担分をゼロに、使用者負担分を引き下げる。
  3. 最低賃金所得層・退職者層向けの購買力低下防止策を実施する。
  4. 再就職・転職支援策を強化する("van werk naar werk"「仕事から仕事へ」)。
  5. 解雇手当は75,000ユーロを上限とする(ただし、労働組合MHPはこの案に反対)。
オランダの労働組合はセクター別に組織されていて、その組合(例えば「教職員」組合)がさらに連合して大きな組織をつくるかたちになっています。最大の規模 を誇るのがFNV(オランダ労働運動連合)、次にCNV(キリスト教全国組合)、それに中堅管理職以上の被用者が加入するMHP(中堅・上級職労働組合連合)があり、この3つの組合が「労働者代表」としてが三者協議に参加します。

もちろん事前に打ち合わせをしたうえで三者協議に臨むのでしょうが、それぞれの目指すところがずれている場合もあるようで。例えば今回、協議項目の5番目にMHPが反対するのも当然といえば当然でしょう。オランダでは年収の最頻値は30,000ユーロ前後。管理職なら年収75,000ユーロ以上もあるし、そういう人の多くはMHPの加入者です。結局FNVが強行突破したようなかんじながら、あとで問題になるかもしれません。

この三者協議について気になるのは、新しい働き方をする人たちの声が汲み上げられていないこと。実は労働組合の全体の組織率は30%を切っています。ただ組合員でなくても、セクターごとに決める労働協約(CAO)は適用されるので、この意味で労働組合が協議に参加するのはわかります。でも、企業に属さずに仕事をしている人たちの立場は?

少し前、元教育相で現在 MKB-Nederland(中小企業の団体)の議長を務めるLoek Hermansが、個人事業者(オランダ語では「人を雇わない自営業者」zelfstandig zonder personeel=zzp'ers)の増加でオランダの社会保障制度が危機にさらされていると述べました。被用者として働く人が減ると、国の保険料収入も減るのは事実。このまま個人事業者の割合が増えていけば財源不足の心配も出てくる、という主旨。現行の制度では、個人事業者は保険料を納めず、国の失業保険や労災保険などは適用されません。一方で民間の保険は負担が重く、加入しない人が大多数。セーフティーネットがないまま仕事をしているということで、これはこれで問題になっています。

Hermansは今回の協議で、zzp'ersの増加による影響も議題にしたかったようです。実際に持ち出されたかどうかは今のところ不明。もっとも、この協議に個人事業者の代表は参加していないわけで、当事者抜きで話し合いをしたい、というのもどうかと思いますが。政労使の「労」の意味が広くなったという認識のもとに、多様な働き方を応援するような仕組みをつくる方向に進んでほしいものです。

2008年10月3日金曜日

子どもの本週間始まる

今年もKinderboekenweek(子どもの本週間)が始まりました。今年のテーマは詩だそうで、作家・イラストレーターのJoke van Leeuwenが詩とポスターを寄せています。

Zinnenverzinzin - Joke van Leeuwen
(詩はKinderboekenweek 2008のサイト、ポスターは主催者CPNBのプレスリリースのページより引用)

タイトルのzinnenverzinzinは、そのまま今回の催しのスローガン。日本語では「さくぶんのきぶん(作文の気分)」というかんじでしょうか。 どの作品でもリズム感があり、ユーモアあふれることばを紡ぎ出すVan Leeuwen。翻訳という点から見れば、ことば遊びの要素を別の言語に移した時にその楽しさがどこまで残るか、残せるかという問題が生まれてしまいます が、彼女が書く/描くオランダ語の世界はなんだかとても楽しくて好きです。

各地の図書館や大手の書店では、来週土曜日まで、人気作家のサイン会やワークショップなど、子ども向けのイベントがたくさん予定されています。

2008年9月29日月曜日

世界初、坑道水を利用した冷暖房設備

廃止された炭鉱の坑道にたまった地下水を循環させて冷暖房に利用するというプロジェクトの実用試験が、オランダ南部の街Heerlenで始まります。 オランダ語でmijnwaterprojectと呼ばれるこの計画、地熱エネルギー技術の開発ということではもちろん、廃鉱後すたれた地域の再生という面でも注目されるプロジェクトのようです。鉱脈が続くドイツだけでなく、イギリス、フランスなど複数国が共同して行う取り組みということで、EUの助成金も出ています。

当面は新築のマンション1棟のみでの運用ながら、今後周辺に整備される宅地(350戸)と文化施設に拡大され、さらにコスト面で問題がなければ、学校など大きな建物にも普及を検討していくとのこと。

プロジェクトのウェブサイト(オランダ語・英語)はこちら

2008年9月19日金曜日

AKO Literatuurprijs 2008 最終候補作発表

AKO Literatuurprijs 2008の「トップリスト(=最終候補作)」が発表されました。オランダ語で書かれた作品(フィクション・ノンフィクション)を対象に、1986年から続いている文学賞です。

AKOは新聞・雑誌を販売するチェーン店。オランダのちょっと大きな駅なら必ずあります。

346の応募作から絞り込まれたのは次の6作品。

Machiel Bosman - Elisabeth de Flines - Athenaeum-Polak & Van Gennep
Tomas Lieske - Dünya - Querido
Doeschka Meijsing - Over de liefde - Querido
Bianca Stigter - De ontsproten Picasso - Contact
Chris de Stoop - Het complot van België - De Bezige Bij
Leon de Winter - Het recht op terugkeer - De Bezige Bij

発表は11月3日。Leon de Winterが大本命のようです。

2008年9月11日木曜日

原子力発電所新設のうごき

与党CDA(キリスト教民主同盟)の議院団長で元環境相Pieter van Geelが先週、オランダ国内での原子力発電所新設は「避けられない」と自身のブログに書いたそうで、それについての反応が報道されている中、オランダで唯一運転中のボルセラ(Borssele)発電所を(別の電力会社Essentと共同で)所有する電力会社Deltaが、原子力発電所の新規建設を申請する方向と発表しました。場所は同じくボルセラ。第1号基の運転開始は2016年を予定。順次2基から4基を建設する計画とのこと。

去年発足した今の内閣は連立協定で原子力発電所の新設はしないとしていることはDelta社の方も計算済み。次期内閣の前半での着工を目指して手続きを進めたい、と述べています。

少し前から原子力発電への回帰の可能性は、というような記事をいくつか見かけていて、これもソフトに民意を問う方法なのかなと思っていましたが、ここへ来て話が急に具体的になってきました。

2008年9月8日月曜日

夏休み終了

イタリア・サルディニア島に行ってきました。連日30度のきもちいい青空の下で2週間。家に帰る日、夜半袖で飛行機に乗ってドイツの空港に到着したら冷たい雨! すでに朝夕暖房が入るような気温です。しっかり太陽の光を貯金したつもりですが、いつまでもつか。

今回の休みは思ったようにメールのチェックができず、自動返信機能に助けられました。いまさらながら、長期の休暇に限らず留守が続くときにうまく使えばストレスが減らせるかも。携帯電話も必ず出られるとは限らないわけで。

休暇はその前後が大変。でもタイミングをはかっていると結局いつまでも休めないというのも事実。今回も結局旅先で片付けることがありましたが、無事終了。帰ってからのちょっとバタバタもやりすごし、すっきりスタートです。

2008年8月8日金曜日

イヤな感じ

朝夕、涼しいを通り越して寒い感じになってきました。特に朝は空気がしっとりひんやりしていて、夏が終わりつつあるのがわかります。今年は去年にも増して雨が多く、夜まですっきり晴れわたった日は少なかったです。

先月は私にしては大きな仕事が詰まっていて、スケジュールの調整ができずお断りする案件が続きました。依頼は断らないというポリシーの翻訳者さんもいるようですが、私は無理と判断した仕事は受けません。基本的には、1 内容 2 納期 3 料金 で大丈夫か、納得できるかどうかをその都度みていくやり方。それなりにうまくいっていると思います。あともうひとつ、意外と無視できないのが、話がまとまる前の段階でのなんとなく「イヤな感じ」。これをごまかして引き受けてしまうと、ストレスが多くて思ったような成果が出ない仕事になってしまうケースがけっこうあるのです。

この感じ、あくまで私の印象で、ほかの人には気にならないかもしれない。いろんな要素が絡んでいるはずですが、ちょっと見えてきたことがありました。

あるヨーロッパの手配会社。少し前に合併して、ひとまわり大きくなりました。以前からお付き合いのあるコーディネーターさんとは、変わらず気持ちよくお仕事させていただいてます。が、最近、新しい名前の人からも連絡が入るようになりました。おそらく合併した事業部門の人で、翻訳の手配は以前からしていた様子。ただ、そこでは普通だったのかもしれませんが、話し合いの余裕はまったくなし。一方的に厳しい条件を示して迫られても、ほかの予定との兼ね合いもあるし、全部にYesとは言えません。でも、それがどうやら通じない。というわけで、この会社、2つのパターンが並行して存在する状態になってしまいました。ちょっとキツくても受けたいと思うか、「イヤな感じ」で断ってしまうか。

なるべくなら気持ちよく仕事をしたい。そのために私がだいじにしたいポイントのひとつは、相手がこちらの言葉にも耳を傾けてくれるか、ということのようです。交渉の余地、もっと言えば必要ならお互いに歩み寄ってひとつの着地点を目指そうとする姿勢。「なんかちょっとイヤかも」と思うのは、それが毎回まったく感じられないからなのでした。最終クライアントに要望や予算の枠があるのは当然のこと。でも、仕事を受ける側にも制約があって当然...とは考えないのですね。このタイプの問い合わせ、上の例に限らずここしばらく続いていて、なんとなく消耗気味です。

2008年7月30日水曜日

ひとり会社をつくる

フェロー・アカデミーが母体になって運営している翻訳者のネットワーク、アメリア。会員向けに翻訳関係の求人情報も提供していますが、ドイツ語やオランダ語の案件なんてめったにないので、私はもっぱら情報源として利用。「ん? これっていいの?」と思うことがないわけでもないけれど、日本での翻訳関連の話が自分から探さなくても入ってくるのは便利です。

ウェブとメール配信以外に、トライアルの講評やコラムを掲載したAmeliaという冊子も毎月出ています。その冊子で近く海外在住の翻訳者を特集するということで、声をかけていただきました。

役に立つところがあるのか?と思いながら質問事項に答えたところ、追加の問い合わせが。翻訳・通訳を仕事にするようになってから、わりとすぐに「ひとり会社」をつくったことについてでした。「ひとり会社」とは、オランダ語のeenmanszaakにあてた言葉。これはひとつの事業体ではあっても、起業した個人とは別の法人格を持っているわけではありません。原語をそのままカタカナにするとワンマンビジネスとなるので、商慣習というか、運用とその解釈の面で多少違うところがあるとはいえ、やはり「個人事業者」がおそらくいちばん適当な日本語でしょう。オランダの商工会議所に商業登記するにあたって、いちばん小さい事業の単位です。

この7月に法律が改正されて、翻訳・通訳業についてはこれまで任意だった商工会議所への登録が義務になりました。法律改正のニュースを知った時、早く済ませておいてよかった!と思いました。事務的な部分でわからないところの答を探しながら、自分なりの処理パターンを組み立てていく時間的余裕は—ありがたいことに—最初の頃ほど取れませんから。

商工会議所への登録とはまた別に、オランダで雇用者としてではなく仕事をして一定額以上の収入を得る場合には付加価値税番号の取得も必要で、これは税務署の管轄になります。税務署関係の話はいろいろ複雑で、気分の悪い思いもしつつ、少しずつ楽にできる方法を作ってきました。いずれにしても、オランダの税法はいわゆるフリーランスや週末起業といった新しい働き方には追いついていない部分が多く、突き合わせると矛盾が出たり、誰に聞いてもはっきりしないところがあるのは確か。結局は担当者の判断次第となるわけですが、これは税務署に限らず、オランダの(特に)お役所一般に言えること。そんな状態でも回っているらしいのが、いつもながらまったく不思議です。

2008年7月15日火曜日

夜明けの色

ちょっと見込み違いで、7月に入って毎日朝まで仕事をする事態に陥っていました。学校の夏休みも始まり、2、3週間の休暇を取る人が多い時期。問い合わせも少なくなって翻訳仕事に集中できるはず...と思っていたのですが、電話やメールへの対応で数時間潰れてしまうこともあり、その日の予定通りに進まないこと数日。深夜の時間帯に作業せざるを得なくなったのでした。前倒しでスケジュールを組んでいたので、納期に響くようなことはないとわかってはいたものの、寝ても覚めてもそのテキストの内容が頭の中でちかちかしていました。

4時をすぎるころから窓の外に色がついてきます。最初は透明な青紫で、それが徐々に消えて赤みが増し、オレンジになって朝。鳥のさえずりも聞こえます。新しい1日が始まる音を聞きながら、前の日の続きを片付けていました。

2008年7月1日火曜日

Audiokrant — 聞く日刊紙

Language Magazine 6月18日号の掲載記事から。

世界初の聞く日刊紙、ベルギーで発行

ベルギーのオランダ語日刊紙De StandaardHet Nieuwsbladの2紙が、6月初めよりAudiokrant("krant" = 新聞)としてCD版でも提供されている。毎朝、ほぼすべての記事が契約購読者のところに届く。現在は視覚障害者・難読症の人を対象としたサービスだが、関係者は老人ホームや長距離通勤者など、潜在ニーズは広いと期待する。

データはmp3などではなく録音図書規格DAISYのフォーマット。合成音声を採用したため聞きやすさの点では音訳テキストよりも劣るが、録音では8−20時間かかる作業も合成技術を使えば15分で処理できる。株式相場やテレビ番組表も含めた新聞を毎日提供するには妥協せざるを得なかった。

詳細情報:www.audiokrant.be

2008年6月23日月曜日

EURO2008 オランダ、準々決勝で敗退

リーグでの3試合を勝ち抜き、いい調子で21日夜の準々決勝に臨んだオランダ。結局、延長の末ロシアに負けてしまいました。3−1。今大会、ちゃんと観たのはこの試合が初めてだったのですが、オランダはスピードがなく、これまでの親善試合などで批判されていた「サッカーをしない」パターンに逆戻りしていました。足も動いてなかったし。逆に、オランダ人のヒディンク監督率いるロシアは、勢い、チームとして攻撃の意志が感じられて動きも機敏。ロシアが勝って当然の試合でした。

それにしても、ヒディンク監督。オランダ、韓国、オーストラリアときて、今度はロシアを指揮しています。若い選手をまとめ、全体としての力(+α)を大舞台で発揮できるようにもっていく秘訣、知りたい人は多いはず。

2008年6月16日月曜日

EURO2008 オランダ連勝


金曜日の対フランス戦、4—1とオランニェ(=オレンジ)ファンにとっては楽しい試合だったみたいですね。固い、とか融通が利かない、とか、メディアではあまり印象がよくなかったファン・バステン監督の株も一気に上昇。
日曜日は理由があって教会に行きましたが、神父さんのお話でも12使徒にからめて決勝トーナメント進出に触れてました。ただし、こじつけ感は否めず。選手11人プラス監督で12人として話をつなげてましたけど、12人目のプレーヤーはファン、というのが普通では...。

ところで、試合開催地ベルンには、チケットを持っていないオランダ人が5万人も詰めかけたそうです。あのこぢんまりした街にオランダ人の大声があふれているかと思うと、ベルンの人たちが気の毒になります。

2008年6月10日火曜日

EURO2008 オランダ1勝

昨日の夜はサッカー欧州選手権の1次リーグでオランダがイタリアと対戦。3-0でオランダが勝ちました。
8時すぎから11時前くらいまでは車の通りもなく、静か。2点目と3点目が入った時には近所からの歓声が聞こえました。前半をちらちら見てただけでしたが、先制点は「? オフサイド?」となって、テレビの前に集まってた人たちもすぐには喜べなかったみたいです。中継の人も「今のはオフサイドでしょう...(巻戻し>スロー再生)...そう、オフサイドです...」とオランダ人らしくないコメントをしたものの、主審がゴールと認めたのを見て取ると、「(もう1回再生)...やはり違いますね、いや、失礼しました。主審の判断は素晴らしい!」と、訂正というか何というか。
ひどかったのは試合が終わった10時半すぎ。叫び声、クラクション、花火の音までする大騒ぎ。大事な試合にいいかたちで勝てたののがうれしいのはわかるけど、でもリーグ初戦でしょ、と思ったのでした。

2008年6月2日月曜日

ことこと1年

1週間に1回くらいのペースで1年、このブログを続けられました。

喜んだりへこんだりしながらの毎日。
気になること/ひっかかること、読んだ本、妙なニュース...。
自分へのメモとして、もう少し対象範囲を広げてみようかと思います。

仕事まわりで考えていることも、書いて整理するつもりで。
勉強の方は今ちょっと苦しいのでその気になれないものの、また楽しくなれば話題にしたくなるのかも。

いろいろあってもなくても、時間はすぎていきます。
ゆっくりでも、きもちよく前に進みたいものです。

2008年5月26日月曜日

歴史的新聞資料のデジタル化

オランダ国立図書館(De Koninklijke Bibliotheek、KB)の新聞記事保存プロジェクト、実際に紙面をスキャンする仕事がいよいよ始まります。全国紙、地方紙、植民地で発行された新聞や自治体単位の(無料)情報紙など、7,000のタイトルから選ばれた記事は合計800万ページ。月20万ページのペースで進めても、3年以上かかる計算。いちばん古い記事は、オランダで初めて新聞が発行された1618年のものだそうです。

デジタル化された記事は新聞データベースから検索できるようになります。現在でもKBのカタログから新聞の検索は可能ですが、これが拡大・統合されるのでしょう。2009年初めには一部が公開されるとのこと。

国立図書館プレスリリース(オランダ語)

DS と Wii でオランダ語

DSとWiiでオランダ語の単語が覚えられるソフト、My Word Coachが4月中旬に発売されました。昨年末に出たMy Spanish CoachとMy French Coachに続くシリーズ第3弾。なぜまたいきなりオランダ語? と不思議です。イタリア語とかドイツ語とか、もっと需要のありそうな言語のバージョンをまず出すのが普通では...。それに、タイトルにDutchが入っていないのも妙。現に同じタイトルの英語学習用ソフトがあるようですね。

パッケージを見ただけですが、画面上の指示もすべてオランダ語でした。なのである程度読めないと、それなりに楽しく進めるのは難しいかと。ゲームに慣れていれば感覚的に分かって遊べるのかもしれませんが、そういう人とオランダ語学習者層はなかなか重ならないでしょう。考えられるのは、ベルギーや北フランスの学校でオランダ語を習う子どもたち。ターゲットとしては狭すぎか。ますます謎です。

2008年5月20日火曜日

気になる一面広告

雲がわき上がる空を背景にそびえる自由の女神像。「?」を感じて見直すと、女神が鼻をつまんでいます。
全国紙de Volkskrantに掲載されていた一面広告。Art Directors Club Nederlandという団体が新聞社と共同で行っているキャンペーンで、地球温暖化をテーマにしたシリーズだとのこと。今回の「自由の女神」を含め、これまでの広告はここで見られます。下の方には以前のシリーズの紹介も。
タイトルとひっかけていたり、読まないとわからないもの(=オランダ語がわかる人が対象)もあって、それはそれでひとつのスタイルだと思いますが、この自由の女神像は写真だけ。隅に入っている短い文章は読まなくても、ちゃんとメッセージは伝わる。言葉を介さなくても通じるというのは強いです。

2008年5月14日水曜日

Libris Literatuurprijs 2008 受賞作発表

Libris Literatuurprijs 2008、受賞作はD. HooijerのSleur is een roofdierに決まりました。20年以上の歴史がある賞ですが、短編集としては初、女性作家の受賞は今回で2度目。

この作品、ほかの候補作とは違い、ショートリストに載るまでは知らなかった人がほとんどでした。それがいきなりの受賞となったので、書店では現在どこも品切れ状態になっているそうです。

作者がベルギーのラジオで短いインタビューに答えているのを偶然聞きました。おしゃべり好きのおばさん、といった感じの声で、調べてみたら1939年生まれ。もともとは詩を書いていて、作家デビューは2001年。受賞作は3作目(すべて短編集)で、今は長編小説に取り組んでいるとか。「賞金5万ユーロ(約800万円)は何に使いますか?」という質問に、「キッチンを新調するか、屋根を修理しようと思ってます」と、聞き手が笑ってしまう答えを返していました。でもこれ、とてもオランダのおばさんらしい返事ではあります。受賞作は、本人いわく「元気な時に読んでも、かなり重い話」。そのうち見かけたら手に取ってみましょう。

2008年5月1日木曜日

アンネの伝記、「読みやすい」シリーズに

オランダの人口は約1600万人。このうち、読み書きの能力が自立した社会生活が可能なレベルに達していない成人が150万人もいるそうです。

先週発表されたアンネ・フランクの伝記(Anne Frank, haar leven)は、この問題を抱える人たち向けに工夫されたもの。文を短くして章立ても整理、写真を多用しているとのこと。『アンネの日記』はこれまでに60カ国語以上に翻訳され、多数の関連書がありますが、こういった本は初めて。

出版を企画した支援団体Stichting Lezen & Schrijvenでは、他にもベストセラーをわかりやすいオランダ語に「翻訳」し、普及を図っています。

Marian Hoefnagel, Anne Frank, haar leven, Eenvoudig Communiceren B.V., ISBN-13: 9789086960392

「読みやすい」シリーズ"Leeslicht"のサイト

2008年4月21日月曜日

ヒューマニズムの行方:El Negro en ik

1958年のブリュッセル万博から50年だそうです。第2次世界大戦後初めての博覧会で、テーマは「科学文明とヒューマニズム」。2年ほど前にリニューアルオープンしたブリュッセル郊外の観光スポットアトミウムが建てられたのもこのとき。人類史上初の人工衛星スプートニクの模型やル・コルビュジエ設計のフィリップス・パビリオンなど、科学技術の進歩を前面に押し出した展示が話題になりました。

この万博はベルギーのコンゴ併合50年を記念した催しでもあり、コンゴから連れてこられた人々が現地の村を模した囲いの中で展示されていました。もっとも、植民地の原住民と集落の展示はブリュッセルに始まったことではなく、1883年のアムステルダム国際博覧会のあたりから行われていたそうですが。

当時の映像をまとめた中で、木の柵の向こうに群がる見物人からバナナか何かをもらう小さな女の子の姿がありました。で考えたのがこの本のこと。

1983年。19歳の学生Frank Westermanは、スペインをヒッチハイク中。 偶然立ち寄ったカタルーニャ州バニョレスの博物館で「それ」を初めて目にします。腰蓑をつけ、槍を持ったブッシュマンの標本。開発援助の仕事を志す青年にとっては衝撃的な体験でした。

El Negroと呼ばれていた「それ」は、一体誰か。どのようにしてこの街にたどりついたのか。ジャーナリストとなった著者は、El Negroの謎を探り始めます。最初の確実な証拠は1831年。この年にアフリカからパリに送られ、1888年にはバルセロナの収集家が引き取ったこと、その後この収集家の名前を冠したバニョレスの博物館に移されたことは突き止めました。足取りをたどる中で、探検家たちが埋葬されていた遺体を「入手」したことも分かりました。そうまでするには、当時どのような事情が、さらには思想があったのか。

著者は実際に開発援助に携わり、現場で植民地主義や人種差別というテーマを考え続けていました。El Negroをめぐる旅とあわせて、理想と情熱が幻滅に変わった著者の実体験も語られていきます。

El Negroの「死後の生」は、遺骨がアフリカに返還された2000年に区切りがつきます。用意された安住の地は、1830年にはまだ存在しなかった国ボツワナ。著者はEl Negroは現在の南アフリカの出身であると考え、調査を続けます。こうして、El Negroの足跡を追いかける旅は、アパルトヘイトを経た社会で終息を迎えるのですが、同時に人種や文化のとらえ方に対する現代の問題を突きつけてもいます。

Frank Westerman - El Negro en ik, Olympus, ISBN13 978 90 467 00583

2008年4月17日木曜日

ブロックハウス百科事典、完全オンライン化

ドイツの事典といえば...のBrockhaus Enzyklopädie(ブロックハウス百科事典)がオンラインで公開されます。しかも検索は無料。

この事典、2005年に30巻、希望小売価格2700ユーロというセットが出て以来、改訂版は出ていませんが、今後は印刷物のかたちではなく、オンラインのみでいくという決断。
た しかに、調べものはとりあえずインターネットにあたるのが普通になった今、紙の、しかも何十巻にもなる事典は売れないだろうと思います。それにしても無 料というのはすごい。ウィキペディアなどに対抗するという意味合いもあるのでしょうが、専門家のプライドもかかっているはず。

昨年末にはオンライン版のブロックハウスとドイツ語版ウィキペディアを比較して、ウィキペディアの方が優れているとする調査結果が発表されたり(ウィキペディアのプレスリリース)、老舗出版社としては歯がゆい思いをしていたに違いありません。

2008年4月9日水曜日

どこにどういるか:Meneer Toto - Tolk

今年のBoekenweekで配布された書き下ろし小冊子の著者、J. Bernlef。
これは手触りのいい青い紙の装丁にひかれて買ったのでした。ふつうの本よりふた回りほど小さく、1編1、2ページ、全体で60ページそこそこの本当に短い作品。

Meneer Toto(Toto氏)は語学の天才。122の言語を操り、通訳("tolk")として活躍しているが、その才能のゆえに、目にしたもの、耳でとらえたものを別の言語に置き換えてみることをやめられない。結果、少しずつ自身の存在を感じなくなっていく。休職、そして病院に収容されたToto氏が望むのは、ものに名前がない —言語が不在の— 世界。感覚でとらえたものを移し換える必要のない、静かな空間。数カ月後、氏は自分の名前すら分からなくなってしまう。

以前は数日間続く通訳の仕事をすると、ひとりになった時に自分の意識が遠くに行ってしまっているように感じることがありました。テレビを眺めていて、英語のニュースが日本語に聞こえたり。頭の中はまだ仕事モードのままで、外から入ってくる音のまとまりに勝手に反応している感覚。わずらわしいと思うのにストップできない状態。

通訳とは誰かのメッセージを伝えること。言葉は自分で選びますが、自分の意見はどこかにしまって、他人の「あれ」や「これ」を行き来させる仕事です。Toto氏はいくつもの「あれ」「これ」に深く分け入る力があったがために、自身の存在に対する希薄感を抱えるようになったと読みました。氏のような特別な能力はないにしても、自分のあれこれを顧みる時間と気持ちの余裕は大切にしないとという思いもあわせて。

J. Bernlef, Meneer Toto - tolk, Em. Querido's Uitgeverij, ISBN 90 214 5243 X

2008年3月31日月曜日

De Gouden Uil 2008 受賞作発表

Marc ReugebrinkがHet Grote Uitstel (Meulenhoff / Manteau)でDe Gouden Uil Literatuurprijs 2008を受賞しました。
一般読者の投票による読者賞は、本命といわれていたJeroen BrouwersのDatumloze dagen (Atlas)。

同時に発表される
Jeugdliteratuurprijs(児童文学)部門では、文学賞がSabien Clement, Pieter Gaudesaboos & Mieke VersypのLinus (Lannoo)、読者賞がSylvia Vanden Heede & Thé Tjong-Khingの Koek koek Vos en Haas (Lannoo)に決まっています。

2008年3月26日水曜日

Libris Literatuurprijs 2008 ショートリスト

オランダの書店チェーンLibrisがスポンサーのオランダ語文学賞、Libris Literatuurprijsのショートリストが発表されました。2007年中に発表された171の応募作から絞り込まれたのは以下の6作品。受賞作の発表は5月6日です。

Jeroen Brouwers - Datumloze dagen - Atlas
Marjolijn Februari - De literaire kring - Prometheus
Louise O. Fresco - De utopisten - Prometheus
D. Hooijer - Sleur is een roofdier - Van Oorschot
Marc Legendre - Verder - Atlas
Koen Peeters - Grote Europese Roman - Meulenhoff/Manteau

リストの1番目と2番目、BrouwersとFebruariは今週末に決まるDe Gouden Uil 2008の最終候補にも入っています。また5番目と6番目、LegendreとPeetersはフラマン語作家。Legendreの作品はふつうの小説ではなく劇画で、このジャンルからは初の候補作。新聞には「漫画家が文学賞にノミネート」という見出しがありました。

2008年3月19日水曜日

Boekenweek 2008

今年の図書週間—boekenweek—は、3月12日から22日まで。

主催は、オランダの図書販売業者、出版社、図書館協会が参加するCPNBという財団。図書週間以外にも、ミステリ月間や子どもの本週間、朗読の日などの催しを展開。またいろいろな作品賞を出してオランダ(語)の図書・読書の普及活動を行っています。

今年の図書週間でスポットがあたったのは、いわゆる熟年層。
VAN OUDE MENSCHEN... - De derde leeftijd en de letteren
(年を重ねた者から... — 第三の時代・第三の文学)
というスローガンのもと、書店や図書館では特集コーナーがつくられています。

ミステリ月間などでもそうですが、期間中に一定額以上本を買うと、作家がこのイベントのために書き下ろしたおまけの本がもらえます。今回は、痴呆症や記憶(の喪失)をテーマにした作品で有名なBernlefのDe pianoman。2005年の春にイギリス・ケントの海岸で保護されニュースになった身元不明の男性、「ピアノマン」を下敷きにした短編とのこと。実はこのおまけが読みたくて、気にはなるけど今買わなくてもいいか、と思っていた本を買ってしまいました。

2008年3月10日月曜日

"World Book Capital" 2008年はアムステルダム

ユネスコ、国際図書館連盟(IFLA)、国際出版社協会(IPA)、国際書店機構(IBF)の4団体が2001年から毎年選定している"World Book Capital(世界の本の首都?)"。2008年はアムステルダムが選ばれ、4月後半以降1年間にわたり、さまざまなイベントが予定されています。

5月18日には、旧市街の中心部が1000以上のスタンドが並ぶ世界最大のブックマーケットに変身するとか。著作権に関するフォーラム、作家のインタビューや講演、またこの催しに連動した展示会や雑誌の特集などもあるようです。

主催者のサイト:オランダ語英語

2008年2月25日月曜日

ecothriller

「エコスリラー」とするとしまりがないですね。環境ミステリ、の方が見た目もいいかな。オランダ語の出版界で去年後半あたりから注目されている推理小説の新ジャンルです。

いち早くシリーズ化を決定したのが出版社A.W. Bruna。昨年秋にサイトを立ち上げました。このジャンルの本が10冊売れるごとに、オランダの自然を守る活動をしている団体を通して木を1本植える計画だそう。オランダ語オリジナル第1作Het Kyoto Complotは、どの書店でも目につくところに平積みされています。

ちなみにこの出版社は1868年創業、うさこちゃん(ミッフィー、オランダ語ではナインチェ)で有名なディック・ブルーナ氏のお父さん/お兄さんが経営していた会社。(翻訳)ミステリに限らず、さまざまなジャンルを手がけています。

2008年2月11日月曜日

De Gouden Uil 2008 ショートリスト

ベルギーのオランダ語文学賞De Gouden Uil(金のフクロウ賞)の最終選考候補5作品が11日に発表されました。前年中に発表されたオランダ語の作品を対象とした文学賞です。1月に公表されたロングリストにはベルギー人、つまりフラマン語作家の名前がありましたが、今回ショートリストに入った5人がすべてオランダ人だということがニュースになっています。
最終選考に残った作品は次の通り(著者名、タイトル、出版社名の順)。

A.F.Th. – Het schervengericht - Querido
Jeroen Brouwers - Datumloze dagen – Atlas
Marjolijn Februari - De literaire kring – Prometheus
Marc Reugebrink - Het grote uitstel – Meulenhoff / Manteau
P.F. Thomése - Vladiwostok! – Contact

受賞作の発表は3月29日。昨年はオランダ人作家Arnon GrunbergのTirzaが選ばれています。

2008年2月5日火曜日

オランダの漫画教材、ドイツで採用

ホロコーストとナチの時代を学ぶ目的で作成されたオランダの漫画教材が、ドイツの学校でも配布されるとのこと。この教材は、オランダの漫画家Eric Heuvelがアンネ・フランク財団、Hollandse Schouwburg(オランダ劇場:アムステルダムにある劇場で、1942−43年にはユダヤ人移送のための一時収容所となった)とともに手がけたもので、戦時下のオランダをテーマとした前作に続くシリーズ2作目。
ドイツ語版を利用した取り組みはまずベルリン市内の学校から始め、その後各地に広げていく予定だそうです。

ここで一部が音声付きで見られます(オランダ語)。

2008年1月31日木曜日

オランダ語と日本語

翻訳・通訳をしてます、と言うと、私が日本で生まれ育った日本人だと知っていながら「何語の?」と聞く人がいます。へんな質問だな、聞き間違えたかな、と 思いつつ、え、だから軸は日本語で、オランダ語と英語、ほんの少しドイツ語も...などと少し小さな声で答えること数回。ようやく、これは後に続く質問の前フリだということが分かりました。
「日本語って、仕事があるの?」
ないでしょう、あるはずないよね、という聞き方。いやまあそれなりに、とかなんとか答えて流してしまいますが、これだけ日本の製品やアニメが入っていても、まだまだ遠い国なんだと感じる瞬間です。

日本からいらした方からも聞かれます。「オランダ語と日本語って、そんな仕事あるの?」たしかに、オランダではどこでも英語が通じるし、観光やビジネスでの短期滞在でオランダ語ができないと困ることはまずありません。私が通訳としてうかがう企業でも、休憩中はともかく、ミーティングは英語で進めるケースがほとんど。純粋にオランダ語と日本語の通訳となると、工場でラインの人たちと話すとか、ネイティブが 50人の会議や講演に日本人が1人か2人参加する(あるいはその逆)といった場合でしょうか。

一方翻訳では、意外にいろいろな案件があります。オランダ語 > 日本語なら、公文書や裁判関係の書類から、報告書、パンフレット、新聞・雑誌の記事。個人のお手紙や歌詞まで。専門分野を決められるほどの需要はないとはいえ、興味と調べものをする時間+根気があれば、経験分野を積み重ねていけます。それに、オランダ語/日本語に関しては、ヨーロッパでもネイティブ言語への訳出にはそれほどこだわらないようです。稀少言語であること、日本語を読みこなせるネイティブが少ないことを反映しているのでしょう。そんなわけで、オランダ語への翻訳もお受けしています。ビザ申請用の証明書にはじまり、作業手順、社是や専門誌の記事要約というのもありました。いわゆるビジネス文書は、通訳の状況と同じように英語 < > 日本語となることが多いです。

「で、仕事あるの?」実は昨日も聞かれました。日本人の方だったので、ええまぁ、と笑っておきましたが、日本にいるとオランダ語なんて耳にすることもないし、これはこれで当然の質問だと受け止めたのでした。

2008年1月23日水曜日

アンネの栗の木 (3)

去年11月末に伐採されるかとニュースになったアンネの栗の木、倒れないように支えをして今後5—10年は様子をみることになったようです。アムステルダム市当局と Bomenstichting(樹木保存財団)、アンネ・フランク財団、その他の関係者間で合意に至ったとの発表がありました。2月以降、保存運動グループが設立した財団Support Anne Frank Treeがこの木の保存事業を市当局より引き継ぐこともあわせて決定されています。

Support Annne Frank Treeでは、この支えの設置費用50,000ユーロに加え、運営資金を募る活動を始めるとのこと。設置作業の終了予定は5月末。この時期までに終わらないと、茂った葉の重みで幹が折れてしまうおそれがあるそうです。すぐに伐採しないと危険、などと言っていたわりにはのんびりした話。

もっとも、伐採許可に関する手続きには法的問題はないとの裁定が先週下っています。なので、もし新しい病害が明らかになったり、設置が失敗したりということになれば、結局伐採されてしまうのかも。国内外の目もあるので、簡単には運ばないでしょうが...。

設置作業が順調に進むのか、注目です。

2008年1月17日木曜日

世界一の書店

イギリスの新聞Guardianが先日記事にした「世界のきれいな書店トップ10」。
1位に輝いたのは、マーストリヒトにあるSelexys Dominicanen。よくのぞく本屋さんです。
こちら、もとは13世紀に建てられた教会。入って右側の半分は天井の高さを3層に分けた書棚で、左側は平積みのコーナー。いちばん奥、かつて祭壇があったところにはカフェも併設。床や柱、天井画などはそのままに、黒やグレーのモダンなインテリアがはめ込まれています(写真はこちらで)。
街に以前からあった2つの書店ーふつうの、この辺りでは大きめのお店と、大学の教科書・専門書を扱うお店—が合併し、Selexysチェーンに入って新たなスタートをきったのがたしか2年前。品揃えもさすがで、ネットではなかなか出会えないような本もたくさん。ゆっくり眺めてまわりたいところですが、実はここ、照明が弱くて、じっくり本を探すのにはあまり向いてません。デザイン的な理由? 

書店の店舗は「手にとって、見て買う」を提供する場。その意味で、目にやさしいライトがないというのは大きなマイナスでは。建物はたしかに斬新ではありますが、1位というのはどうかなあと思ったのでした。

ちなみにこのランキング、9位には京都の恵文社一乗寺店が選ばれていました。

2008年1月10日木曜日

引きこもり対策

こちらの会社は多くが2日から通常営業とはいえ、1月1週目はさすがに動きはありませんでした。今週は、日本のお正月休みが明けたこともあり、ふだんのリズムが戻ってきました。

例年、1月2月は出かける仕事がほとんどありません。翻訳その他自宅での作業ばかりだと、それ自体は苦にならないのですが、やはり煮詰まってくるのです。それでせっかく休みにした日に限って天気が悪かったりすると、結局家ですごしてしまい、ますます外出がおっくうに...。
今年は「冬ごもり」にならないよう、週1回お稽古ごとに通うことにしました。とりあえず3カ月間やってみて、楽しければどう続けられるか考えます。

2008年1月4日金曜日

新年


あけましておめでとうございます。
新しい発見がたくさんある1年になりますように。