2008年12月5日金曜日

生き苦しさの先にあるもの:Stand-in

今年のVN Detective&Thrillergids(推理小説&スリラーガイド)で、オランダ語オリジナルとしては唯一5つ星を獲得。「独創性、斬新さ、緊張感、センスある文体:すべてをあわせ持っている。なかなか素晴らしい」とかなり褒められていた作品。手に取ってみたくて探したのですが、大きな書店でもいつも空振り。先日図書館で見つけたので借りてみました。

<あらすじ>
舞台は1930年代のハリウッド。ハンガリー出身のJarek Simitzは、かつてJack Stormの名でサイレント映画に出演、親友のBurt Falconにスタンドイン兼スタントマンを務めさせていた。しかしトーキーの時代に入ると、なまりのある英語しか話せないJackは干され、反対に生粋のアメリカ人Burtがスターとなった。将来への希望もなくし、関節炎の痛みばかりを抱えるJackは自殺を決意。ただし、事故に見せかけた自殺。愛する妻と子どもに保険金を遺すためだ。JackはBurtに最後の応援を頼む。そして2人は計画の実行に踏み切るが...。

B級映画っぽくもありながら予想を裏切る展開に「そう来るか!」と読み進めました。これって間違い? と思う箇所もありましたが。ちょっと雑かなぁというところは、この著者の作品は初めてだったので、パターンに慣れてないこともあるかと。

表紙は昔の映画ポスターを模したもの。Roman Noir: STAND-IN  Crime Novel of the Yearと入っています。でもそんなにダークな話ではありません。クライムノベルというのも、どうなんでしょう。犯罪をめぐる小説ではあるけれど、裏社会の闘いを描いているわけではないし。

もともと沈黙を好む上に、移民で、きちんとした英語が話せないことを恥じている主人公Jarek/Jackにとって、サイレント映画の俳優は理想的な職業でした。仕事を離れたところでもなかなか口を開かないJarekに妻のAllyが言います。「ほんとの人生ではものを言わないと(In het echte leven moet je praten.)」それは、好むと好まざるにかかわらず、時代の流れにあわせることでもありました。もがいてもどうにもならない、ここまでだ、と人生最後の芝居に踏み切ったJarekですが、考えた通りにことは運びません。そんな中で身近な人の「言っていなかったこと」も明らかになったり、サスペンスというより哀しいコメディの要素も。タイトルのスタンドインとは、危険なシーンを俳優の代わりに演じるスタントマンとは違い、撮影の準備段階でセットに入る「代役」のこと。画面に映ることのない裏方の仕事です。誰が誰の代役か、という点からストーリーを眺めると、全体のスピード感とはまた違うおもしろさがあります。

著者Dhoogeは1973年、ベルギーのゲント生まれ。小説家としてのデビューは2001年ですが、すでに40冊近い著作があります。子ども向けの共著を除き、作品にはすべてSで始まるタイトルがついているそうです。

Bavo Dhooge - Stand-in, Kramat (2007), ISBN 978 90 75212 82 2

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