2012年3月2日金曜日

Met alle respect:誰かへの思いやり

オランダの中堅実力派コメディアン、テオ・マーセン(Theo Maassen)のショウに行ってきました。役者としても活躍していて、一見ふつうながら実はおかしいところのある人を演じるとすごくはまる。ずっと隠してきた怒りが制御できなくなるとか、必死の状況のなかでふくらんでいく狂気とか。

オランダ語でcabaretと呼ばれる演芸はスタンダップコメディと訳されることが多いけど、ちょっと違う。たしかに、小話を矢継ぎ早に繰り出すというパターンもあるし、日本のコントのようなのも人気。でも主流はモノローグ。1時間半くらい、観客を相手に何かを語って聞かせる芸。

今回も、独特の露骨な発言を交えてたくさん笑いを引き出していました。ただし、笑い飛ばすというのではなく、考えのタネをあっちこっちに仕込んでいるような、頭のいい人の舞台。例えば、どきっとさせられたのは次のひとこと。
昔の政治家は夢を描き、どうすればそれが実現できるかを語った。いまの政治家は悪夢のシナリオを示して、それが現実にならないために何をすべきかを説明している。
外国のドキュメンタリーで観たと前置きしていたけれど、これを(乾いた)笑いが生まれるように引くのがうまさなのでしょう。

ショウのタイトルは"Met alle respect"。英語の"with all (due) respect"と同じで、相手の意見に反対するときに使う「失礼ながら/お言葉ですが」というフレーズです。舞台でも取り上げられていたように、オランダの社会は外国人・よそ者排斥を堂々と訴える声が強まり、それがなんとなくふつうのことになりつつあります。これをふまえれば、単語レベルの「できるかぎりの配慮を」という意味も込められていると感じました。それでこそ、結末部分の「(家族が、観客が、○○が)ここにいてくれてうれしい」という言葉が生きてくるのではないかと。