2016年12月31日土曜日

2016年10月31日月曜日

扉の向こうへ:De negen kamers


YA(ヤングアダルト)小説が想定する読者は、児童書は卒業したけれど、大人向けの文学作品はまだ無理かなという年代。オランダ語ではkinderboek(子どもの本)と区別してjeugdboek(青少年向けの本)と呼ばれたりもします。いわゆる中高生向け。大人の本への橋渡しという立場から、表現や構成をわざとやさしめ・甘めにすると、そこで読む楽しみがそがれてしまうかもしれず、かといって難しすぎると感じさせてもいけないという微妙なジャンル。もっとも、ティーンエイジャーでも読みたいものを読める人には意味のない区分だし、大人が読んだほうが響きそうな作品がYAとなっていることもあるわけです。

本書の主人公はヨナス、17歳。大の本好き。空想癖あり。しばらくひどい頭痛に悩まされている。両親がそろって出張で、妹は祖母のところに預けられた。家にひとりですごせるのもあと1週間という朝、リビングに下りていくと、様子が違う。床に散らばっていた雑誌はきちんと重なり、汚れた皿やカップはきれいに棚に収まっている。誰かが夜中に掃除をした——泥棒? でもラップトップも、アンティークの時計もそのままだ。窓もドアも壊れていない。しかも、見たこともない大きな古い本がテーブルに置かれ、その上には手書きの紙切れが。
この本をひもとけば
人生が永遠に変わろう
いたずらに決まっている、触らないほうがいい、やめておけ——そう思いながら、手はページをめくってしまい……

展開はファンタジー小説。淡々とした調子の文章から、鮮やかな絵が浮かんで動き出す。描写はヨナスの感情をしっかり追いながらも、常にわずかな距離感を保っていて、作品世界に対する押しつけがない。それに、読み進めるなかで、考える材料が次々湧いてくるために、ゴール(結末)への流れがなかなか見えてこない。

De negen kamersは、そのまま訳すと「9つの部屋」という意味で、ヨナスが侵入する、古本の挿絵にそっくりの屋敷にあるらしい部屋の数を指している。ヨナスは、それぞれの部屋で何かを得(あるいは何かを失い)、その次の部屋へと移動する。逃げ込むこともあれば、流されてたどり着くこともある。もちろん、自分で決めて進んでいくことも。望むと望まざるとにかかわらず、誰でもひとつずつ扉を開けて、大人になる。そのあたりをとらえた、不思議な深みのある本。



Peter-Paul Rauwerda, De negen kamers, Lemniscaat, ISBN: 978-90-477-0839-1. 

2016年8月26日金曜日

2016年7月31日日曜日

2016年5月31日火曜日

2016年3月31日木曜日

ネット書店大手に抵抗する出版社の言い分


オランダのネット書店の草分けで最大手のBol.comが、もともとは文芸雑誌Das Magazinを発行していて、去年の後半から書籍の出版を始めたDas Mag社(Das Mag Uitgevers)の書籍の取り扱いを突然中止したそうです。Das Magの設立者の1人がウェブサイトに事情を説明する文を掲載したことで、話題になっています。

雑誌のみの頃から作家を交えた読書会イベントを開催し、しかもそのチケットがすぐに売り切れてしまったりして、とんがった方向性で注目されていたグループが立ち上げた出版社Das Mag。一口50ユーロで3,000人の「共同設立者」を募り、自社のウェブショップでは紙の本と電子版をまとめて販売、さらに著者の印税率を上げることを公言…と、新しい方向を目指しているらしいことは明らかでした。

Bol.comでは、Das Magの紙の本だけを扱う契約だったようです。それ自体に問題はなかったのでしょうが、年が明けて、Das Magが出したLize Spitという新人作家のデビュー作がベストセラーリスト入りしたタイミングで、Bolは新しい「協力契約書」への署名を要求。拒否した場合は「必要な措置を講じる」と迫りました。

新しい契約条件は、Das Magとしては納得できないものでした。Bolの取り分が増える理由を尋ねると、「ウェブショップの最適化」との回答があったそうです。以下サイトから翻訳して引用。
それはふつう営業費用ではないかと。どこかの書店が改装するときに、その費用の一部を−−販売を「最適化」するために−−Das Magが負担したりはしないわけで。だから、条件の変更には同意しませんでした。それで、うちの本はBolから消えたと。
Das Magは、Bolは自社で在庫を抱えないので、売れ残りのリスクを負うほかの書店よりも、むしろ取り分が低くなるほうが実は筋が通っていると指摘して、こう続けます。
オランダとベルギー・フランダースには、うちの本を扱っている書店がたくさんあります。 どこもがんばってくれていて、順調に売れています。なぜそう言えるか。書籍売り上げのうち、Bol経由はわずか2.65%。一般的に考えられるよりもずっと少ないんです。
売れるポテンシャルのある作家を抱えていて、強く出ても大丈夫という読みもあるのでしょうが、Bolとしてはどう収拾を図るのか。いまのところ「遺憾」「協議を続けたい」というコメントしか出ていません。

2016年1月6日水曜日

2016年



あけましておめでとうございます。


できること を したいこと に近づける。