2012年6月29日金曜日

オランダの失業保険制度改正論 [メモ]

オランダの失業保険制度改正についてのメモ。

オランダの失業保険(Werkloosheidswetuitkering、WW)

  • 65歳以下の労働者が週5時間以上の労働時間を喪失する場合が対象となる。
  • 自主退職や違法行為を理由とする即時解雇などは対象外。
  • 失業前の36週間中26週以上にわたって賃金を得ていれば、喪失した労働時間分について、この賃金の70〜75%相当額が保障される。
  • 受給期間は3カ月から最長で38カ月。
  • 再就職して「喪失した時間」についても受給資格あり(例えば週36時間の契約で失業し、新しい仕事が24時間の労働の場合は12時間分の失業とみなされる)。

2012年4月半ば頃までの状況
制度の改正(=受給期間の短縮)は以前から言われており、第1次Rutte内閣が成立した2010年の選挙でも争点となっていた。連立与党VVDとCDAは短縮派だったが、閣外協力のパートナーPVVは反対で、連立協定では雇用法関係の論点(失業保険法改正と解雇規制の緩和)には触れないとされていた。
不況に加えて、ユーロ参加国として財政赤字をGDPの3%以下に抑えるという義務が2013年以降は守れないという見通しが明らかになり、与党VVD、CDAとPVVの3党が緊縮財政案について協議(3月初旬〜)するなかで、改正の可能性が検討された。

その際に出た(と報道された)案
- 受給期間を最長1年に短縮
- 給付金の最初の半年間は使用者側が負担 < 解雇規制緩和と引き換え
- 給付金の額:最後の給与の75%という水準を70%(あるいはそれ以下)に減額 
< 現行制度では給付開始後最初の2カ月間は75%、その後は70%
- 年齢が高い失業者向けの補填分は廃止
- UWV(失業保険給付を行う行政機関)の予算、各自治体の就業支援の予算削減

緊縮財政案自体は年金、教育・福祉、付加価値税など、多方面での改革と抱き合わせであり、どう落ち着くかははっきりしないが、4月末には骨格が明らかになる見込み。経済政策分析局(Centraal Planbureau、CPB)が効果を計算、微調整を経て内閣の正式発表となるが、法律改正が必要なものについてはその後議会で審議という手順を踏むので、実際に改正がなされるのは早くても来年の後半。9月半ばの来年度予算案の発表がひとつの目安になる。

4月23日、Rutte内閣総辞職 総選挙が9月12日に実施されることに

VVD、CDAとPVVの交渉は決裂したが、2013年度の予算成立に向けて5党(VVD、CDA、GroenLinks、D66、ChristenUnie)の合意が直後に成立。失業保険関連では以下が決まったが、具体的にどう実施するかについては不透明。

- 失業保険の給付額・期間は変更なし
- 失業保険の最初の6カ月間については使用者側が負担(2014年より)
- 解雇/退職手当の制限 
> 一定額を超える部分は"work-to-work(転職支援)"の講習等に充当
- 失業保険の保険料・雇用者負担分は(来年一時的に)引き上げ

今後の方向性を明らかにするはずの来年度予算案発表(女王演説)が、今年は9月18日と総選挙の翌週というタイミングで行われる。選挙の結果によっては、新制度の計画が消えてしまうことも考えられる。

2012年6月19日火曜日

Zilveren Griffels (銀の石筆賞)

2011年に出版された子どもの本を対象とした賞、今年は9作品が受賞となりました。このなかから、秋に「Gouden Griffel (金の石筆賞)」が発表となります。オランダ語で制作された子どもの本の奨励賞なので、「金〜」についてはフィンランド語からの翻訳作品である"Ik en de rovers"以外が候補作。いまどきちょっと了見が狭いという気がしなくもありませんが。実際に去年は、イラストに対して送られる「Zilveren / Gouden Penseel(銀/金の絵筆賞)」でオランダ語オリジナルの該当作がなく、史上初めて翻訳作品ばかりという事態になったのでした。

Zilveren Griffel 受賞作(作家 - タイトル - 出版社)

<6歳まで>
Wouter van Reek - Keepvogel en Kijkvogel - Leopold
Sjoerd Kuyper - O rode papaver, boem pats knal! - Lemniscaat

<6歳から>
Siri Kolu - Ik en de rovers - Gottmer
Edward van de Veendel - Toen kwam Sam - Querido

<9歳から>
Truus Matti - Mister Orange - Leopold
Harm de Jonge - Vuurbom - Van Goor

<読み物>
Jacqueline van Maarsen - Je beste vriendin Anne - Querido
Bibi Dumon Tak - Winterdieren - Querido

<詩>
Ted van Lieshout - Driedelig paard - Leopold

Sjoerd Kuyper、Ted van Lieshout、Bibi Dumon Takと、こういった賞の常連の作家の名前が並んだ手堅い印象のリスト。個人的にはKeepvogelが入っているのがうれしい。これはシリーズもので、どれも味わい深いというか、くすくすっと笑えるストーリー展開が楽しくおもしろい。DVDも持っていますが、6歳までのカテゴリーになるというのは多少意外に思いました。今回の受賞作はハーグ市立美術館のモンドリアン展(2011年)と連動した企画。なお、Mister Orangeもこの展示にあわせて発表された本だったそうです。


2012年6月1日金曜日

オランダ・ミステリガイド 2012年


オランダ語で出版されたミステリをまとめたガイドブック、VN Detective & Thrillergidsが発売されました。第33号となる今号では、2011〜2012年に出版された380作品と、それ以前に出(て評価の高かっ)た314作品がまとめて解説されています。

去年は北欧の作品が多い印象でしたが、今年はそれほどでもなく。かわって目についたのはスペイン語圏やイタリア語からの翻訳。英語圏の作品は、いわゆる大御所はともかく、数に比べて評価が高いものは少なめのようです。


「大賞」に選ばれたのはDeon Meyer。南アフリカ発のミステリというのも珍しい。ケープタウンを舞台とした警察小説と紹介されています。大賞を含め5つ星(満点)を獲得したのは以下の7点。久々にオランダ語オリジナルの作品(C. den Tex)がリスト入りしました。
  • Deon Meyer - 13 uur(原題:13 Uur, 2008)- A.W. Bruna
  • R.J. Ellroy - De helden van New YorkSaints of New York, 2010)- De Fontein
  • Jo Nesbø - De schimGjenferd, 2011)- Cargo
  • Ferdinand von Schirach - SchuldSchuld, 2010) - De Arbeiderspers
  • Charles den Tex - De vriend - De Geus
  • Stephen King - 22-11-1963(11/22/63, 2011) - Luitingh
  • Domingo Villar - Het strand van de verdronkenenLa playa de los ahogados, 2009) - Karakter
オランダ語オリジナルの作品は概して評価が低いのですが(星1つ、中には0というものも)、ベルギーの作家には星4つの評価が複数ありました。そのうちの1冊、Terug naar Hiroshima(Bob Van Laerhoven, Houtekiet, 2010)はプロットについていけず挫折した本。遠い国日本の話という読み方ができなかったのでした。

ちなみに日本の作家では唯一、東野圭吾の『容疑者Xの献身』が「サイコスリラー」というジャンル分けで3つ星評価を獲得しています。