2013年5月31日金曜日

Toen mijn vader een struik werd

パパが茂みになったのは、ここじゃないところに住んでいときだ。そのころは、そこがここじゃないところだなんて思ったこともなかった。どこだってここじゃないどこかだった。住んでいたところのほかは。
子どもの本の作家で、イラストレーターで、舞台にも立ち、大人向けの小説も発表しているJoke van LeeuwenのToen mijn vader een struik werd(パパが茂みになったとき)の出だしです。作者の特徴である独特のロジックとユーモア。冒頭から主人公の女の子Todaの語りに引き込まれました。

Todaはケーキ職人の父親と2人暮らしでしたが、国で戦争が起こり、父親も戦地に向かうことになります。出発を前に父親がTodaに見せた兵士の心構えを説く本にはカモフラージュについての章があり、茂みに偽装した兵士の写真が載っていました。Todaは、父親がうまく茂みになることができれば敵に撃たれることはないはずと思います。引っ越してきた祖母と2人で留守を預かるはずでしたが、戦火が迫り、母親のところに行くように言われます。母親は長く隣の国に住んでいて、Todaにしてみれば写真とたまの電話でしか知らない存在でした。

リュックサックひとつで疎開バスに乗るToda。彼女の芯の強さが現れるのはここからです。自分のなかの寂しい気持ちを認めつつ、冷静な観察眼を失わない。隠しポケットに入れていた現金をだまし取られても、国境付近の森でひとり道に迷っても、その状況を人のせいにしない。予想・期待とは違う方向に事態が進んでしまっても、できることを考えて行動に移すしなやかさ。

著者本人によるイラストの効果もあって一見楽しいだけの物語のようですが、その根底には厳しいテーマが潜んでいます。Todaは本人の知らないところで「難民」になり、そういった扱いを受けます。例えば、歩き通して隣の国に入り、登録機関に引き渡されたTodaに係官がする最初の質問。
「君は使えるか?」
Todaが質問の意味がわからないと言うと、「何ができる? この国の役に立つことで」
難しい説明なしに現実社会にある問題がくっきりと示されています。

本書は、オランダ児童文学作品賞である銀の石筆賞の2011年佳作(Vlag en wimpel)。ドイツ語への翻訳が2013年のドイツ児童文学賞(Deutscher Jugendliteraturpreis, Kinderbuch)の候補になっています。


Joke van Leeuwen, Toen mijn vader een struik werd, Querido, 2010, ISBN: 978 90 451 1084 4.