YA(ヤングアダルト)小説が想定する読者は、児童書は卒業したけれど、大人向けの文学作品はまだ無理かなという年代。オランダ語ではkinderboek(子どもの本)と区別してjeugdboek(青少年向けの本)と呼ばれたりもします。いわゆる中高生向け。大人の本への橋渡しという立場から、表現や構成をわざとやさしめ・甘めにすると、そこで読む楽しみがそがれてしまうかもしれず、かといって難しすぎると感じさせてもいけないという微妙なジャンル。もっとも、ティーンエイジャーでも読みたいものを読める人には意味のない区分だし、大人が読んだほうが響きそうな作品がYAとなっていることもあるわけです。
本書の主人公はヨナス、17歳。大の本好き。空想癖あり。しばらくひどい頭痛に悩まされている。両親がそろって出張で、妹は祖母のところに預けられた。家にひとりですごせるのもあと1週間という朝、リビングに下りていくと、様子が違う。床に散らばっていた雑誌はきちんと重なり、汚れた皿やカップはきれいに棚に収まっている。誰かが夜中に掃除をした——泥棒? でもラップトップも、アンティークの時計もそのままだ。窓もドアも壊れていない。しかも、見たこともない大きな古い本がテーブルに置かれ、その上には手書きの紙切れが。
この本をひもとけば
人生が永遠に変わろう
いたずらに決まっている、触らないほうがいい、やめておけ——そう思いながら、手はページをめくってしまい……
展開はファンタジー小説。淡々とした調子の文章から、鮮やかな絵が浮かんで動き出す。描写はヨナスの感情をしっかり追いながらも、常にわずかな距離感を保っていて、作品世界に対する押しつけがない。それに、読み進めるなかで、考える材料が次々湧いてくるために、ゴール(結末)への流れがなかなか見えてこない。
De negen kamersは、そのまま訳すと「9つの部屋」という意味で、ヨナスが侵入する、古本の挿絵にそっくりの屋敷にあるらしい部屋の数を指している。ヨナスは、それぞれの部屋で何かを得(あるいは何かを失い)、その次の部屋へと移動する。逃げ込むこともあれば、流されてたどり着くこともある。もちろん、自分で決めて進んでいくことも。望むと望まざるとにかかわらず、誰でもひとつずつ扉を開けて、大人になる。そのあたりをとらえた、不思議な深みのある本。
Peter-Paul Rauwerda, De negen kamers, Lemniscaat, ISBN: 978-90-477-0839-1.
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