2008年4月9日水曜日

どこにどういるか:Meneer Toto - Tolk

今年のBoekenweekで配布された書き下ろし小冊子の著者、J. Bernlef。
これは手触りのいい青い紙の装丁にひかれて買ったのでした。ふつうの本よりふた回りほど小さく、1編1、2ページ、全体で60ページそこそこの本当に短い作品。

Meneer Toto(Toto氏)は語学の天才。122の言語を操り、通訳("tolk")として活躍しているが、その才能のゆえに、目にしたもの、耳でとらえたものを別の言語に置き換えてみることをやめられない。結果、少しずつ自身の存在を感じなくなっていく。休職、そして病院に収容されたToto氏が望むのは、ものに名前がない —言語が不在の— 世界。感覚でとらえたものを移し換える必要のない、静かな空間。数カ月後、氏は自分の名前すら分からなくなってしまう。

以前は数日間続く通訳の仕事をすると、ひとりになった時に自分の意識が遠くに行ってしまっているように感じることがありました。テレビを眺めていて、英語のニュースが日本語に聞こえたり。頭の中はまだ仕事モードのままで、外から入ってくる音のまとまりに勝手に反応している感覚。わずらわしいと思うのにストップできない状態。

通訳とは誰かのメッセージを伝えること。言葉は自分で選びますが、自分の意見はどこかにしまって、他人の「あれ」や「これ」を行き来させる仕事です。Toto氏はいくつもの「あれ」「これ」に深く分け入る力があったがために、自身の存在に対する希薄感を抱えるようになったと読みました。氏のような特別な能力はないにしても、自分のあれこれを顧みる時間と気持ちの余裕は大切にしないとという思いもあわせて。

J. Bernlef, Meneer Toto - tolk, Em. Querido's Uitgeverij, ISBN 90 214 5243 X

0 件のコメント: