2013年11月30日土曜日

You are just a waiter

BBC Newsのサイトで、フィンランド出身の指揮者エサ=ペッカ・サロネンの記事を見かけました。ロンドンのフィルハーモニア管弦楽団(The Philharmonia Orchestra)の首席指揮者で、作曲家でもあります。

"Esa-Pekka Salonen: 10 tips to becoming a conductor"
  By Alison Feeney-Hart
  30 November 2013

「指揮者になるための10のTips」、インタビューを元に構成した文章でさらっと読めたのですが、その中になんというか、ぐっときた項目がひとつ。
4. Accept that you are just a waiter 
The composer is the chef and conductors are the waiters. Both are totally honourable professions but we have to accept that if I conduct a piece by Beethoven, I'm just a waiter. I might be head waiter, but waiter none the less and I am there to make sure the food comes to the table on time and intact.
キッチンから出てくるものをきちんと届ける仕事。訳することも同じ。いつもおいしいものとは限らないにしろ、そのまま味わってもらえるように工夫を続けるのです。

2013年10月29日火曜日

AKO Literatuurprijs 2013

オランダ語圏で民間がスポンサーの文学賞としてはいちばん長く続いているAKO Literatuurprijsの発表が昨日ありました。今年の受賞作は子どもの本の作家・詩人でもあるJoke van LeeuwenのFeest van het begin。18世紀末の革命に揺れるフランスが舞台の物語とのこと。

最終選考には次の6作品が残っていました。
  • Martin Bossenbroek - De Boerenoorlog - Atheneaum-Polak & Van Gennep
  • Jan Brokken - De vergelding - Atlas Contact
  • Wouter Godijn - Hoe ik een beroemde Nederlander werd - Atlas Contact
  • Joke van Leeuwen - Feest van het begin - Querido
  • Ilja Leonard Pfeijffer - La Superba - De Arbeiderspres
  • Allard Schröder - De dode arm - De Bezige Bij

ちなみにDe Boerenoorlogは先日歴史ノンフィクションの賞(ロングリスト)を受賞しています。

2013年8月20日火曜日

Harmonic Fields




Harmonic Fieldsという展示に行ってきました。
かつて炭鉱があり、いまは公園というか原っぱが広がっている場所に、いろんな楽器がたくさん「植えられて」いました。
風が通り抜けると、あちこちから音が聞こえます。どれも楽器から生まれる音。

音楽=楽器+演奏家
楽器を奏でるのは人だという思い込みはちょっと脇に置いて、耳をすませる。

弦楽器は弦が風で振動して
管楽器は管に風が入ることで 音が出る。
吹く風の向きと強さに応じて、同時に聞こえる音も変わります。

演奏者は不在でも、これは合奏。自然の風が紡ぐ音でした。

2013年7月25日木曜日

Libris Geschiedenis Prijs 2013 ロングリスト

歴史ノンフィクションに対する賞、Libris Gescgiedenis Prijsのロングリスト10作品が発表されました。オランダ語で書く以上、テーマがオランダとその周辺国の歴史に偏る傾向はある意味仕方がないことと思いますが、今年は南アフリカのボーア戦争あり、イースター島の発見あり、と珍しくバラエティに富んだリストと言えそうです。

  • Martin Bossenbroek - De boerenoorlog - Athenaeum-Polak & Van Gennep アパルトヘイトの起源、世界大戦への予兆ともみなされる南アフリカのボーア戦争の詳史 
  • Jan Brokken - De vergelding: Een dorp in tijden van oorlog - Atlas Contact 第2次世界大戦末期にオランダのある村で死亡した若いドイツ兵をめぐる事件の真相
  • Roelof van Gelder - Naar het aards paradijs: Het rusteloze leven van Jacob Roggeveen, ontdekker van Paaseiland (1659-1729) - Uitgeverij Balans イースター島を発見した探検家の伝記
  • Edwina Hagen - President van Nederland: Rutger Jan Schimmelpenninck (1761-1825) - Uitgeverij Balans バタヴィア共和国の成立に深く関与した政治家・外交官とその妻の伝記
  • Els Kloek - 1001 vrouwen uit de Nederlandse geschiedenis - Uitgeverij Vantilt  オランダの歴史に登場する女性たち1001人の物語
  • Geert Mak - Reizen zonder John: Op zoek naar Amerika - Atlas スタインベックの『チャーリーとの旅』から50年後、その足跡をたどる旅
  • Frits van Oostrom - Wereld in woorden: Geschiedenis van de Nederlandse literatuur 1300-1400 - Bert Bakker 14世紀オランダ文学史
  • Ronald Prud'Homme van Reine - Moordenaars van Jan de Witt: De zwartste bladzijde van de Gouden Eeuw - Arbeiderspres オランダ共和国の政治指導者ヤン・デ・ウィット兄弟の虐殺をめぐる論考
  • Bart Slijper - In dit gevreesd gemis: Het leven van Willem Kloos - Bert Bakker 詩人ウィレム・クロース(1859-1938)の生涯
  • Eva Vriend - Het nieuwe land: Het verhaal van een polder die perfect moest zijn  - Uitgeverij Balans 干拓により誕生したオランダで12番目の州フレヴォラントの歴史

発表は10月。ちなみに去年の受賞作は、第2次世界大戦中の日記をベースに当時「普通のオランダ人」はホロコーストについてどこまで知っていたかという問題を扱った作品でした(Bart van der Boom, 'We weten niets van hun lot': Gewone Nederlanders en de Holocaust, Boom)。

去年のロングリストはこちら

2013年6月28日金曜日

オランダ・ミステリガイド 2013年

毎年5月末に発売となるVN Detective & Thrillergids。前年にオランダ語で出版されたミステリ小説をまとめたガイドブックで、今年で第34号。メインである原著者名アルファベット順の目録のほかに、作家インタビュー、再現ルポなどを収録。オランダのテレビで評判になった北欧発のクライムドラマの影響か、今号には国内外のテレビシリーズを評価したページがありました。

5つ星(満点)の評価を受けた作品は7冊。

  • Tove Alsterdal - Het stille graf(原題:I tystnaden begravd, 2013)- Prometheus
  • R.J. Ellory - Bekraste zielenBad Signs, 2011)- De Fontein
  • Lucretia Grindles - Villa TriesteThe Villa Trieste, 2010)- A.W. Bruna
  • Lars Keplers - SlaapSandmannen, 2013)- Cargo
  • Michael Koryta - De profeetThe Prophet, 2012)- Cargo
  • Derek B. Miller - Nacht in NoorwegenNorwegian by Night, 2012)- Atlas Contact
  • John le Carré - Een broze waarheidA Delicate Truth, 2013)- Luitingh-Sijthoff

「大賞」はル・カレ。去年はデオン・マイヤー、その前はインドリダソンときて、大ベテランが復帰したかたち。The New York Timesに載った長いインタビューが翻訳転載されています。

総評のようなところにおもしろいことが書いてありました。今号の作品リストをまとめるにあたっては、サスペンスの要素とその量についてこれまで以上の議論があった。結果として、ミステリと銘打った作品であってもサスペンスの要素が少ないものはリストから外し、逆に「文学的 literair(日本語の「純文学」に近いニュアンス)」小説のジャンルからも優れたミステリとして読めるものを追加したと。該当する作品名は特に挙げられていませんが、いまのところ、目録でタイトルの後にある「探偵」「警察」「スパイ」「サイコスリラー」といった区分のなかでよくわからない「文学ミステリ」の範囲がさらに広がったということと解釈しています。

気になったのはコロンビアの作家Antonio UngarのDe presidentskandidaatTres ataúdes blancos, 2010)と、ヴェネチア生まれのAlberto OngaroによるDe burg van de verlatingIl ponte della solita ora, 2006)。こうやって読みたい本リストが長くなっていくのです。

VN Detective & Thrillergids
2012年版についてはこちら
2011年版についてはこちら

2013年5月31日金曜日

Toen mijn vader een struik werd

パパが茂みになったのは、ここじゃないところに住んでいときだ。そのころは、そこがここじゃないところだなんて思ったこともなかった。どこだってここじゃないどこかだった。住んでいたところのほかは。
子どもの本の作家で、イラストレーターで、舞台にも立ち、大人向けの小説も発表しているJoke van LeeuwenのToen mijn vader een struik werd(パパが茂みになったとき)の出だしです。作者の特徴である独特のロジックとユーモア。冒頭から主人公の女の子Todaの語りに引き込まれました。

Todaはケーキ職人の父親と2人暮らしでしたが、国で戦争が起こり、父親も戦地に向かうことになります。出発を前に父親がTodaに見せた兵士の心構えを説く本にはカモフラージュについての章があり、茂みに偽装した兵士の写真が載っていました。Todaは、父親がうまく茂みになることができれば敵に撃たれることはないはずと思います。引っ越してきた祖母と2人で留守を預かるはずでしたが、戦火が迫り、母親のところに行くように言われます。母親は長く隣の国に住んでいて、Todaにしてみれば写真とたまの電話でしか知らない存在でした。

リュックサックひとつで疎開バスに乗るToda。彼女の芯の強さが現れるのはここからです。自分のなかの寂しい気持ちを認めつつ、冷静な観察眼を失わない。隠しポケットに入れていた現金をだまし取られても、国境付近の森でひとり道に迷っても、その状況を人のせいにしない。予想・期待とは違う方向に事態が進んでしまっても、できることを考えて行動に移すしなやかさ。

著者本人によるイラストの効果もあって一見楽しいだけの物語のようですが、その根底には厳しいテーマが潜んでいます。Todaは本人の知らないところで「難民」になり、そういった扱いを受けます。例えば、歩き通して隣の国に入り、登録機関に引き渡されたTodaに係官がする最初の質問。
「君は使えるか?」
Todaが質問の意味がわからないと言うと、「何ができる? この国の役に立つことで」
難しい説明なしに現実社会にある問題がくっきりと示されています。

本書は、オランダ児童文学作品賞である銀の石筆賞の2011年佳作(Vlag en wimpel)。ドイツ語への翻訳が2013年のドイツ児童文学賞(Deutscher Jugendliteraturpreis, Kinderbuch)の候補になっています。


Joke van Leeuwen, Toen mijn vader een struik werd, Querido, 2010, ISBN: 978 90 451 1084 4.

2013年4月30日火曜日

オランダ新国王即位

オランダで新国王が即位しました。女王が3代続いた後で、国王は123年ぶり。46歳というと国王としては若いのでしょうが、この業界(?)の世代交代がたまたま今回オランダで始まったということでは。

新国王夫妻はリラックスした雰囲気で人気があります。即位前のインタビューでも、国王本人が「自分は儀礼的なきまりごとにはこだわらない」といった発言をしていました。その通り、というべきか、祝賀水上パレードでは途中で予定外にボートを下り、もう演奏が始まっているコンサート会場に立ち寄るという「ハプニング」がありました。トランスミュージックが響き渡るステージに家族5人で登場、DJとがっちり握手を交わして観客に向かって手を振るというパフォーマンス。新しいスタイルを印象づけました。

2013年3月26日火曜日

EUをめぐる国民発議に5.5万人署名

EU関連条約改正時に国民投票を実施することを求めるイニシアチブ(国民発議)に、55,000人分の署名が集まったそうです。提出に必要とされる4万人のラインを超えたというニュースがあったのは3月上旬。これで注目度が上がったか。先月、国民投票法案が下院で可決されたと書きましたが(2月19日の投稿)、これはまた別の話。議会委員会でOKが出れば審議に付されることになりますが、制度ができた2006年以降の例をみるとかなり厳しい(これまでに提出された12件のうち8件は適格性なしとの判断)。とはいえ、ユーロ危機の対応でもヨーロッパの統合をさらに進めるか否かという議論が軸となっているいま、これを切り捨てるのは政治的にまずい状況を招きかねません。

このイニシアチブは、ウェブサイトによると、
「2005年にオランダの有権者の61%がEU憲法に反対の意思表示をしたにもかかわらず、EUの力はその後さらに強くなっている。ユーロ危機では各国の国家予算に関する権限がEUに認められるようになるなど、国としての発言権は小さくなる一方である。民主主義の形骸化が進んでいる」が、「EUへの権限委譲は国民の明示的な合意なしに進めてはならない」として、(1)EUへの秘密裏の権限委譲の中止、(2)新たな権限委譲にあたっての国民投票実施 を求めています。

2013年2月28日木曜日

IMPACダブリン文学賞 ロングリスト

IMPACダブリン文学賞(International IMPAC Dublin Literary Award)のロングリストにオランダ語の作品が入っているとのことで、ウェブサイトを見てみました。英語で「発行」された小説、つまり他言語からの翻訳も含めた作品に対して授与される賞で、2010年にはDavid Colmerがオランダ語から訳した Twins が受賞しています。
[原著:Boven is het still, Gerbrand Bakker 以前短く紹介]

世界の主要都市の公立図書館が推薦する本の中から選ばれるこの賞、今回は44カ国120都市の図書館が参加したとのこと。対象は2011年中に英語で出版された作品、翻訳の場合は原著の発行が5年以内という条件付き。合計154の推薦作中、翻訳は42あるそうです。これを多いとみるか少ないとみるか...。

オランダ語オリジナルの作品は今回4つ。どれも原著が大ヒットしたとかいうわけではないので、すくいあげる目を持った人たちの力が結集した成果なのでしょう。

  • Conny Braam, Jonathan Reeder (translator), The Cocaine Salesman, [原著タイトル:De handelsreiziger van de Nederlandsche Cocaïne Fabriek]
  • Otto de Kat, Ina Rilke, Julia, [Julia]
  • Tessa de Loo, Brian Doyle,  The Book of Doubt, [Harlekino]
  • Tommy Wieringa, Sam Garrett,  Caesarion, [Caesarion]

このサイト、候補作の表紙が一覧できるのがいいです。クリックすると作品・著者の説明のページに飛びますが、左側に推薦した図書館の名前があります。村上春樹の『1q84』、申京淑『母をお願い』(日本語訳:安宇植、集英社、2011年)もリスト入り。トゥーサンはじめ、気になっていた本もいくつか。

これが10作品まで絞り込まれ、4月初めにショートリストとして発表されることになります。



2013年2月19日火曜日

議会下院、国民投票法案を可決

オランダ議会下院で2月14日、諮問的な国民投票を導入する法案が可決されました。欧州憲法条約批准について国民投票を実施した(結果は否決)2005年に提出されていたにもかかわらず、本格的な審議がないまま年月が経過していたものです。

この国民投票は、EU憲法をめぐる投票と同じく、結果に法的拘束力はありません。議会が法律や条約を可決して担当大臣が署名すると、その法律・条約に反対する有権者は4週間以内に10,000名分の署名を集めて国民投票の実施を求めることができ、この署名が有効であると認められれば、投票実施のためにさらに300,000名分の署名が6週間以内に必要とのこと。結果は諮問的とはいえ、極端に投票率が低い場合でなければ、議会でも民意として考慮せざるを得なくなるでしょう。上院での審議もありますが、順調に行けば2014年1月から施行ということになるかもしれません。

なお、先日イギリスのキャメロン首相がEU残留の是非を問う国民投票を行うと述べたことで、反EUの立場をとるPVVのWilders党首はオランダでもそうすべきだと言っていますが、今回の法案は「議会で一度可決された案件」についての国民投票であり、Wildersが望むEU脱退を直接のテーマとするものとは異なります。

2013年1月23日水曜日

読み聞かせ週間

今年の読み聞かせ週間(De Nationale Voorleesdagen)が今日スタートしました。作家や国会議員、TVに出ている有名人が小学校の幼児クラスで読み聞かせをしたり、図書館や書店でも催しがあったりします。学校はともかく、一面凍りついているお天気なので、イベントにはあまり人が集まらないかもしれません。

国内図書館の児童書担当司書の推薦で決まる「今年の絵本」にはMilja PraagmanのNog 100 nachtjes slapenが選ばれました。2011年に出た作品ですが、読み聞かせ週間にあわせて朗読DVDの付いた特別版が出ます。また、オランダ標準手話(NGT)と補助手話付きバージョンを収録したDVDも発売されるそうです。

2013年の「今年の絵本」を含め、読み聞かせにおすすめの本10冊に選ばれた作品は次の通り。(作家名—タイトル—出版社名)

  • Milja Praagman - Nog 100 nachtjes slapen - Leopold
  • David Meling - Ik will een knuffel - Van Goor
  • Adam Stower - Gek hondje - C. de Vries-Brouwers
  • Guido van Genechten - Superbeesje is al onderweg - Clavis
  • Anna Kemp & Sara Ogilvie - Neushoorns eten geen pannenkoeken - Leminiscaat
  • Gitte Spee - Er was eens een vosje... - The House of Books
  • Tjibbe Veldkamp & Kees de Boer - Agent en Boef en de Boefagent - Lannoo
  • Joke van Leeuwen - Waarom lig jij in mijn bedje - Querido
  • Petr Horácek - Pieter de papegaaiduiker - De Vier Windstreken
  • Mies van Hout - Vroelijk - Lemniscaat

ここで表紙が一覧できます:De Nationale Vooeleesdagen - Prentenboek Top Tien








2013年1月2日水曜日

2013年

あけましておめでとうございます。

伝わるように伝えられるように。
知らないことも楽しめるように。