Haar naam was Sarah(原題:Sarah's Key)は、この史実をテーマにしたフィクション。物語の軸となる人物は、1942年当時10歳のユダヤ人少女サラと、60年後の2002年、パリに暮らして25年になるアメリカ人ジャーナリスト、ジュリア。本の半ばまでは、1942年7月その日の明け方からのサラの体験と、Vel' d'Hiv'についての記事をまとめることになるジュリアの行動が交互に語られます。
サラには幼い弟がいました。警察が踏み込んできた時、この弟は子ども部屋の隠し戸棚に入って動きませんでした。サラは、すぐに迎えにくるからと約束してこの戸棚に鍵をかけ、両親とともに連行されます。一方でジュリアは、取材を進める中でフランス人の夫の家族の大きな秘密に触れてしまうことになります。最近まで夫の祖母が住んでいて、近くジュリアたちが引っ越しを予定している家は、Vel' d'Hiv'で検挙されたユダヤ人の家族のものだったのです。
サラの目を通した描写が終わるところまではかなり引っ張っていかれました。後半、ジュリアの語りだけになってからは前半の静かな力強さが感じられず、母として生きる女性の葛藤、という方向に流れているのがちょっと残念というか、話の展開としてはわかるものの、あまりのれませんでした。でも、久しぶりに一気に読んだ本です。
著者de Rosnayはパリ在住。フランス語での著作はすでにありますが、これが英語でのデビュー作とのこと。
Tatiana de Rosnay, Haar naam was Sarah, Artemis & co, 2007.
[参考:マルセル・リュビー、『ナチ強制・絶滅収容所:18施設内の生と死』、菅野賢治訳、筑摩書房、1998年]
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