神戸生まれのベルギー人作家アメリー・ノートン。こういうのを軽妙な筆致というのかな。もちろんオランダ語で読んだのですが、文章のリズムがきもちよく、最後の数ページまでひっぱっていかれました。次々と読み進めていけるというのは物語の構成力だろうけれど、訳文の感触がよかったことが大きいかも。今回はいつものベテランではなく、若手、というか同年代の翻訳者さんが手がけたらしい。
作家アメリー・ノートンは手紙好き。大量のファンレターにも目を通し、すべてにではないにしろ、かなりたくさんの手紙に返事を書くことを続けている。ある日、イラクに駐留するアメリカ人兵士からの手紙が届く。「...ここでの毎日は地獄です。あなたにならきっとわかっていただけると思います。お返事お待ちしています...」 一風変わった第1信に興味を引かれた作家はすぐに返事を出し、文通が始まる。この兵士、メルヴィンは、単純に食事にありつけるからという理由で軍隊に入隊し、バグダッドに送られた。戦地でも食べ続け、現地での体験・ストレスから深刻な肥満状態にある。彼によれば、これは一種のサボタージュ。ハンガーストライキの逆をいって、アメリカ政府に彼の食費や軍服(サイズXXXXL!)その他の装備の費用を負担させ続ける抵抗運動であるという。彼はアメリーとの対話から、その巨大な体は彼自身が生み出した芸術作品であるという理解に至る。頻繁にやりとりしていた2人だが、メルヴィンからの返信が突然途絶え、アメリーはいろいろな手を尽くして彼の消息を知ろうとする。そうして探し当てた真実のためにアメリーはアメリカに...。
設定について深読みすべきではないけど、これはアメリカ軍の兵士でなければならなかったんでしょうね。コンパクトなのにいろいろ考えながら読ませる本でした。
Amélie Nothomb, Een vorm van leven(原題:Une forme de vie、翻訳:Daan Pieters), De Bezige Bij Antwerpen, 2010, ISBN: 9789085422518.
0 件のコメント:
コメントを投稿