2015年5月11日月曜日
言う嘘と言わない嘘
ドイツ映画 "Im Labyrinth des Schweigens"(Giulio Ricciarelli 監督、2014年)を観ました。Schweigenは「押し黙る・漏らさない」という意味なので、タイトルをそのまま訳せば「沈黙の迷路で」となるでしょうか。ちなみに英語のタイトルは "Labyrinth of Lies"。
1950年代末の経済復興に湧くドイツ・フランクフルトで、アウシュヴィッツ関係者起訴に向けて証言・証拠を追求する若手検察官の奮闘——。第二次世界大戦が終わって10数年、戦争犯罪に対する審判であったニュルンベルク裁判からも10年。世間の意識は明らかに戦争から離れていました。また、収容所の実際についてはこの頃ほとんど知られていなかったようです。
検察に事件を持ち込んで追い払われた新聞記者を主人公があらためて訪ねる場面が印象的でした。裁判所だと思われる場所で、この記者は周囲の人間に声をかけます。
「アウシュヴィッツって聞いたことある?」
「アウシュヴィッツ、ご存じですよね?」
若い人の答えはNO、年齢がいっている人は微妙な表情で「いや…」とかわす。
主人公は、膨大な書類を整理する一方、思い出したくない記憶を抱えたホロコースト生還者を説得し、その体験を証言として残す作業を始めます。しかし、政財界や司法界にはナチ党員の過去を隠して成功した有力者のネットワークがあり、捜査は難航。挫折を味わいながらも、フリッツ・バウアー首席検事(実在の人物)をはじめとする周囲の支えを得て、収容所の実行犯の訴追を実現します。それがフランクフルト・アウシュヴィッツ裁判(1963〜65年)。映画は裁判が開廷するところで終わります。
アウシュヴィッツ裁判は、収容所で実際に手を下した者をドイツ人が自ら初めて裁き、ドイツ社会の過去との向き合い方を変えたといわれる裁判です。そこに至るまでに必要だった、山のような記録と証人の記憶をつなぎ合わせ、浮かび上がった事実をドイツの法律に照らして検討する時間。正義感や使命感を振りかざすのをやめたときに見えてくるもの。正味2時間、長いとは感じませんでしたが、終わったあとにはずっしりくるものがあって、しばらく黙りこくっていました。
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