2011年2月10日木曜日

積み重なった思い:Boven is het stil

経歴に「作家・庭師」とあるGerbrand Bakker(1962 - )のBoven is het stilを読みました。大人向けの小説としてはデビュー作(2006年)。この英語版は昨年IMPACダブリン文学賞を受賞しています(この記事で紹介)。

主人公の男性、ヘルマーは55歳。結婚歴なし。北ホラントの農場で父親と2人暮らし。母親は10年前に亡くなり、双子の弟は19歳のときに事故で死亡。跡継ぎとして父親が目をかけていたのはこの弟ヘンクだったが、ヘルマーは大学での勉強を断念せざるを得なくなる。それから35年。朝早く起きて、動物(乳牛、羊、鶏、そしてロバ)の世話をし、農場まわりの仕事を片付けるだけの毎日。そこに突然、弟の元婚約者から手紙が届く。その後、彼女の19歳の息子ヘンクが住み込みの手伝いとしてやってきて、ヘルマーの単調な生活が少し変化する。

とても静かな、距離を置きながらも対象をていねいに見つめた描写。スピード感とか、ぐいぐい引っ張られるような力強さはないけれど、物語は主人公の生活のテンポですすんでいく。表立っては何も変化がないようでも、確実に起こってしまったこと。それが層になったところに現在の日々があることが、じわじわと伝わってくる。また話の運びとは別に、自然を描く言葉づかいになじみがなく、新鮮でした。

オランダでもベルギーでも、書店の棚は翻訳作品が優勢です。よその国で話題になった作品はわりとすぐ翻訳が出ますし、村上春樹の『1q84』も原書の刊行から約1年で、他言語に先がけて出版されていたりします。読者にとっては選択の幅が増えて楽しいし、オランダ語への翻訳者にとっても悪くないことでしょうが、オランダ語で書く新しい作家にとっては厳しい状況ではないかと。もともと市場として大きくない(オランダ・ベルギー・スリナム+α)ところに、外国の話題作とも競争して本になるところまでたどり着かないといけないわけで。そこからさらに別の言語に翻訳され、それが評価されるというのは、いろんな力がうまく働いたからにちがいありません。


Gerbrand Bakker, Boven is het stil, Cosee, 2006, ISBN:978 90 5936 228 4

2011年1月31日月曜日

週間トップセラーリスト

ふだん読んでいる新聞、Volkskrantの土曜日版には10ページ前後の読書セクション(別刷り)が入っています。ここに出ている図書販売業者の団体CPNBによるベストセラートップ5というコーナー、いつもはさらっと見るだけですが、1月29日の掲載分には?がともりました。
  1. Bibi Dumon Tak & Noëlle Smit, Fiet wil rennen, Stichting CPNB (1)
  2. Annejet van der Zijl, Sonny Boy, Querido (92)
  3. Suzanne Vermeer, Zwarte piste, A.W. Bruna (2)
  4. Han van Bree, Het aanzien van 2010, Het Spectrum (3)
  5. Tatiana de Rosnay, Haar naam was Sarah, Artemis & co (102)
(カッコ内の数字はCPNBトップセラー60冊ランキング入りした週の数)

ジャンルで分けると、
  1. =絵本:今年の読み聞かせ週間(1月19〜29日)の推薦図書10冊のなかで特に評価が高い作品
  2. =歴史ノンフィクション:映画が公開されたばかり
  3. =人気の女性ミステリ作家の最新作
  4. =ニュース年鑑
  5. =翻訳文学、こちらも2010年秋に映画が公開(Elle s'appelait Sarah)
となります。販売数の単純な集計とはいえ、なんというか、無節操ぶりに苦笑。


2011年1月25日火曜日

オランダの切手コレクション

ハーグにある博物館、Museum voor Communicatieが新しいウェブサイトを公開しました。オランダで初めて切手が発行された1852年から現在までを網羅したもの。切手によっては試し刷りなども見られ、デザイナー、テーマ、材質などで検索も可能。年表に切手が配置されていて、同じデザイナーのものが線でつながっているのもおもしろい工夫。例えばディック・ブルーナで検索してみると、彼が手がけた最初の切手は1969年、最後は1995年の発行でした。

オランダでは去年から切手の額面表示がなくなって、「1」や「2」と印刷されるようになっています。郵便料金が値上がりしても切手を足さずに使えるので便利でお得な対策ではあるのでしょうが、これだと旧料金の切手を混ぜて貼りたいときに面倒だというだけでなく、時間の経過がわからなくなりますね。たくさんの切手をいちどに見て感じました。

オランダ切手コレクションのウェブサイト:Museum voor Communicatie - Postzegel ontwerpen
年表はここから。

2011年1月19日水曜日

Sonny Boy、映画化

Annejet van der Zijl(1962 - )のベストセラー、Sonny Boyの映画版が今月末に公開されるそうです。数年前に縁あって正面から向き合った本で、映画化は2005年に決まっていたことを知っているので、やっと、というところ。もっともオランダでは、プロダクションが自社で資金を都合できないと国の補助金に頼ることになり、映画が完成するまで5、6年かかるのは珍しくないようですが。

1930年頃から第2次世界大戦の終わりまでを軸に、結婚生活に破れたオランダ人女性とスリナム出身の黒人の学生との恋愛を描いたノンフィクション。植民地、宗教、戦争、差別と、オランダ社会のいろいろな重い要素が絡んだ物語です。脚本と監督を手がけたMaria Petersは、児童文学を原作にした映画でオランダ語圏ではそれなりに知られた人。好みの問題とはいえ、ストーリーが妙にわかりやすくなっていると残念だなと余計な心配をしています。

2011年1月7日金曜日

今年の初BOL

年が明けてすぐにbol.comに注文していた本が届きました。今年初めて買った小説は、スウェーデンの作家Torgny LindgrenのDe Bijbel van Doré。読み書きはできないながらも、ギュスターヴ・ドレの聖書画集を通して世界を知った少年の物語。じっくりゆっくり読みたいです。

Torgny Lindgren, De Bijbel van Doré, 翻訳:Lia van Strien, De Geus, 2010, ISBN:978 90 445 1313 4.

2011年1月2日日曜日

2011年

あけましておめでとうございます。

知らないを知る。
途中も楽しむ。

2010年12月17日金曜日

戦争がのこしたもの:Allemaal willen we de hemel

第2次世界大戦末期のフランダース地方。ある村に暮らす一家の子どもたち3人とその友達の少年が、ドイツ敗戦の色が濃くなる日々をどのように受けとめ、それぞれの人生の決断を下したか。4人の視点が章ごとに切り替わり、物語はらせん状に進んでいく。戦争、友情、恋愛、家族といったテーマが絡む史実は重く、結末に向かって登場人物のさまざまな思いが重なり響き合う。

ティーンエイジャー向けの小説とされているものの、文章に大仰なところはまったくない。雪が積もって妙に静かな外の景色にぴったりくる本でした。2009年De Gouden Uil(ベルギーの文学賞)、青少年文学部門読者賞受賞作。

Els Beerten, Allemaal willen we de hemel, Querido, 2008, ISBN: 978 90 451 0619 9.