2012年2月3日金曜日

生のかたち:Een vorm van leven

神戸生まれのベルギー人作家アメリー・ノートン。こういうのを軽妙な筆致というのかな。もちろんオランダ語で読んだのですが、文章のリズムがきもちよく、最後の数ページまでひっぱっていかれました。次々と読み進めていけるというのは物語の構成力だろうけれど、訳文の感触がよかったことが大きいかも。今回はいつものベテランではなく、若手、というか同年代の翻訳者さんが手がけたらしい。

作家アメリー・ノートンは手紙好き。大量のファンレターにも目を通し、すべてにではないにしろ、かなりたくさんの手紙に返事を書くことを続けている。ある日、イラクに駐留するアメリカ人兵士からの手紙が届く。「...ここでの毎日は地獄です。あなたにならきっとわかっていただけると思います。お返事お待ちしています...」 一風変わった第1信に興味を引かれた作家はすぐに返事を出し、文通が始まる。この兵士、メルヴィンは、単純に食事にありつけるからという理由で軍隊に入隊し、バグダッドに送られた。戦地でも食べ続け、現地での体験・ストレスから深刻な肥満状態にある。彼によれば、これは一種のサボタージュ。ハンガーストライキの逆をいって、アメリカ政府に彼の食費や軍服(サイズXXXXL!)その他の装備の費用を負担させ続ける抵抗運動であるという。彼はアメリーとの対話から、その巨大な体は彼自身が生み出した芸術作品であるという理解に至る。頻繁にやりとりしていた2人だが、メルヴィンからの返信が突然途絶え、アメリーはいろいろな手を尽くして彼の消息を知ろうとする。そうして探し当てた真実のためにアメリーはアメリカに...。

設定について深読みすべきではないけど、これはアメリカ軍の兵士でなければならなかったんでしょうね。コンパクトなのにいろいろ考えながら読ませる本でした。


Amélie Nothomb, Een vorm van leven(原題:Une forme de vie、翻訳:Daan Pieters), De Bezige Bij Antwerpen, 2010, ISBN: 9789085422518.

2012年1月19日木曜日

オランダ語の字幕

思ってもみなかったつながり方で、オランダ語の字幕翻訳の仕事をのぞかせてもらいました。

きっかけは、字幕翻訳者さんのツイートがRTで回ってきたこと。「日本語のできる人にちょっと聞きたいことが...」というのに「いますぐじゃなければお手伝いできるかも」と連絡してみたところ、メールでのやりとりに発展。

日本映画を英語字幕からオランダ語に訳しているのだけど、ここの意味が通らない。わかる? どうして唐突にこんなセリフが出てくるの? という質問に順番に答えていたら、「ほかにも気になるところがあるし、全体をみてもらえるとうれしい。クライアントにも話を通して、予算もつけてもらったから」と。こんなことってあるんだ...と思いながら、やらせてください、とお返事しました。

で、英語の字幕がついた映像ファイル、それからオランダ語の翻訳はワードで到着。SSTなんて持ってないので、要確認のところは字幕の番号じゃなくてタイムコードでリストアップしてもらって、なんとか私なりに作業できる状態に。

字幕の翻訳は、ちゃんとしたかたちではやったことがありません。ずいぶん前、プレゼンテーションのビデオやPRの映像に多言語の字幕というか、説明をつけるといった案件が続いたことがありました。そのときに要求されたのは「とにかく見た目の長さを同じに」ということ。いまやツイッターで一目瞭然ですが、日本語は1文字あたりの情報量が多い。で、このときは漢字でコンパクトに表記できることをカタカナにしたり、読みづらくなるのを承知で最終加工をしたのでした。まったく逆方向の作業ですよね。テレビ番組の一部を翻訳したこともありますが、これは字数は関係がなかったし。

文字の情報として何をどこまで出すか、切るか、という判断はいつも難しい。そこに文字数の制限があるとなおさらです。また、この映画は(ベルギーでの公開用に)フランス語でも字幕が入るということで、スペースがさらに限られていました。脚本も何もなしで、数行のあらすじと英語字幕からオランダ語の世界が立ち上がってくるように、簡潔な表現はもちろん、文化的なところも凝縮した1行にする。たいへんな仕事です。私はあれこれ思いつくままに説明を書いていればよかったわけですが、それを汲んで流れるセリフを組み立てる彼女の感覚はすごいと思いました。

公開されたら映画館に行くつもり。楽しみです。


2012年1月3日火曜日

2012年


あけましておめでとうございます。


小さな音に耳をすませよう。





2011年12月14日水曜日

クリスマスカード

9月からほぼ毎週乗っている国境越えの電車、昨日は線路沿いの家が一気にクリスマス仕様になっていました。オランダのものと思われがちな12月5日のシンタクラース、ドイツでも地方によってはお祝いします。それが終わると慌ただしくクリスマスになるのもこの辺り(オランダの南端)と共通。

気がついてみれば12月も半ば。クリスマスカードの準備をする時期です。オランダではクリスマスカードや年賀状に使える専用切手"Decemberzegel"があって、毎年違ったデザインで売り出されます。今年のDecemberzegelは、いつも読んでいる雑誌のチームが手がけるということもあって、楽しみにしていました。去年のもノスタルジックな路線でしたが、今年の方が、やさしくあたたかい雰囲気が伝わる図案。

ちなみに、オランダ語でクリスマスカードに書く文は、
Prettige kerstdagen en een gelukkig nieuwjaar
 = Merry Christmas and a Happy New Year 
がいちばんふつうのパターン。
このkerstdagen(クリスマス)はfeestdagen(祝日)にも交換可能。なので
Prettige feestdagen en een gelukkig nieuwjaar
 = Happy holidays and a Happy New Year 
もよくあります。単語を大文字で始めて
Prettige Kerstdagen en een Gelukkig Nieuwjaar
Prettige Feestdagen en een Gelukkig Nieuwjaar
もあり。ほかには
Zalig Kerstfeest en een Gelukkig Nieuwjaar
 = Blessed Christmas...
というのもありますが、これは主にカトリックの人が使う表現で、ちょっと古いかんじがします。周囲でこの言葉を使う人の年齢が高めということもあるのでしょうが。

メールその他での挨拶も「あり」です。でも数は少ないながら、カードを選んだり文面を考えたり、そして実際に手で書いていくのはなかなか楽しい。ちょっとゆっくり誰かを思う時間です。


2011年11月1日火曜日

AKO Literatuurprijs 2011

今年のAKO Literatuurprijsが昨夜発表されました。受賞作はMarente de Moor(1972 - )のDe Nedelrandse maagd。1936年の夏を国境のすぐ向こうのドイツの村ですごすことになったオランダ人少女の体験を描いた作品。短評では"Bildungsroman"という言葉が使われています。複数の書評があまり響いてこなかったのでまだ手にしていませんが、近所が舞台ということもあるし、読む本リスト入り。

ちなみに、最終選考に残っていたのは次の6作品。

  • Jeroen Brouwers - Bittere bloemen - Atlas
  • Peter Buwalda - Bonita Avenue - De Bezige Bij
  • Arnon Grunberg - Huid en Haar - Nijgh & Van Ditmar
  • Marente de Moor - De Nederlandse maagd - Querido
  • Marja Pruis - Kus me, straf me - Nijgh & Van Ditmar
  • P.F. Thomése - De Weldoener - Contact

Peter Buwaldaはデビュー作のBonita Avenueが話題になって、いくつか賞も取って勢いがある作家。個人的にはThoméseが好みだけど、この顔ぶれではやはり大御所のBrouwersか、40歳にして20年近いキャリアのあるGrunbergかなと予想していましたが、はずれ。もっとも、一般のニュースを見ているかぎりでは意外な結果だったようで、記事の見出しにもそれが現れています。




2011年10月10日月曜日

勉強の週(その2)

しばらく遠ざかってしまいました。雨ばかりだった7、8月の埋め合わせ? というようなお天気も終わり、本格的に秋です。

この1カ月は、環境政策のグループワークが3週間。もともと2週間の予定だったのが急に変更になり、1日単位の負担が軽くなるのかと思ったのは甘かった。土日も含めてアウトプットを求められ、予想以上にたいへんな展開でした。気候変動には直接関係ないけれど、政治と科学と市民の関係について、大震災以後の日本ではいろいろ動き始めているよ、という話をしたら興味を持ってくれた人がいました。あとはレポート、これは1人の作業なので気が楽ですが、読むべきものをまだ読み切れてないところに担当の先生からメールが来たりで焦りを感じています。読みたい本の山の方はあまり見ないようにしてのりきりたいところ。

2011年9月6日火曜日

北京ブックフェア2011とオランダ

オランダのビジネス業界、インドの次は中国という流れはここ数年来のことですが、最近すごいと思うのは出版関係。たくさんの本が中国語で翻訳出版されています。オランダという国はよくも悪くも経済的なつながりを求める歴史があるし、中国の発展の勢いをみれば当然とはいえ、アジアは中国をおさえればOK、となってしまうのは残念というかちょっと複雑。

オランダは先週北京で開催されていた国際ブックフェア(BIBF 2011)のゲスト国でした。言論の自由を第一とするオランダが検閲や人権の制限を公然と行っている中国でゲスト国となることをなぜ選ぶのかという批判、また大勢の作家や文化関係者が(夏休み前に文化予算大幅カットを公言した大臣たちと一緒に)派遣され、公式行事に出席することは許しがたいといった意見が出ていたところに、ブックフェアにからんでオランダ側と連絡を取った中国人の作家が自宅軟禁されたというニュースが伝えられたり、オランダ国内での関心は高かったようです。

土曜日のde Volkskrantに、オランダ文学基金(Nederlands Letterenfonds)の代表、Henk Pröpper氏の短い文章がありました。肯定的な印象を伝えるのはまあ当然ながら、ビジネスの成果に触れているところがおもしろい。歴史・哲学書の出版社Historische Uitgeverijはなんとすべての出版物について、児童書のLeopoldも子ども向けのシリーズ複数で商談成立。ファン・ゴッホ美術館はゴッホの書簡集の権利に関して、オランダの出版社としては歴史上最高額の契約を結んだとのこと。今後の総括や実質的な評価はふつうの新聞などでは伝わらないでしょうが、翻訳出版の動向とあわせて気にしておきたいところ。

なお、オランダパビリオンのウェブサイトOpen landscape - Open bookでは関係者のブログが読めます(英語と中国語)。そのなかで、China Reading Weeklyの記者Kai Kang氏の投稿「オランダの出版社のみなさんへ:中国の出版市場進出に関する7つのルール」が秀逸。
If there’s sensitive content in your book, you’d better choose a big publisher, whose editors would more experienced and more skillful, that is: sensitive content could be retained more.
ですって。そういうことをしないことも含めて「言論の自由」を掲げているのだと思いますが...。