あけましておめでとうございます。
楽しくするやり方を考える。
楽になる方法を工夫する。
イタリア・トリエステ、1943年9月。埠頭で頭に重傷を負った男が発見され、停泊中のドイツ軍艦に運び込まれる。昏睡状態から目覚めた男は記憶と言語能力を失っていた。担当医師は、コートに縫い付けられていたラベルの名前から男をフィンランド人の船員だと判断し、自身の母国語でもあるフィンランド語を教え、故国への送還を手配。ヘルシンキに到着した男は、あるはずの居場所を求めて街をさまようが、過去への手がかりは見つけられない。
男は本当にフィンランドの出身なのか? 日々フィンランド語と格闘するなかで、男はものごとを感じ、理解する方法も身につけていく。それは取りも直さず、体験を記憶としてゼロから—フィンランド語で—積み重ねていくことだった。しかしそれ以前の記憶、つまり男の過去は、フィンランド(語)で蓄えられていたのだろうか? 対ソ戦のさなかのヘルシンキで、男は自分の頭の中にある空虚との戦いを続ける…フィンランド語には欠格という格があり、「〜なしで」という意味を表すそうです。フィンランド語でいちばん好きな点(単語や文)はと尋ねられた主人公は、この欠格だと答えます。
「そう、ないものを表す格変化……まったく美しい、まるで詩ですね。しかも便利ときている。ふつう人間は持っていないものの方が多いですから」